不当解雇の弁護士トップへ

不当解雇に関するQA

解雇とは?

様々な解雇理由

人員整理・リストラ(整理解雇)

懲戒解雇

残業代,未払賃金の請求

雇い止め

不当な配置転換・出向・転籍

内定取消・採用延期

セクハラ,パワハラ

病気による休職

退職

その他の質問

不当解雇.com > 様々な解雇理由 > 協調性がないとで解雇できる?

<$MTPageTitle$>

協調性がないことで解雇できる?

事例

私は,先日,会社の上司から呼び出されて,協調性が欠如していることを理由に,解雇すると告げられました。詳しく聞くと,私が,伝票処理のミスを指摘された際,「人間なら誰にもミスはある」と開き直ったり,伝票が回付されないので納品できなかったところ,後日,私の卓上ケースから伝票が発見された際に,「誰かが私を陥れるためにわざと私の卓上ケースに入れた」などと弁解したりしたこと,また,私が得意先の会社に出向いた際に,顧客に失礼な態度をとり,得意先からも再三注意され,得意先との関係がギクシャクしていることなどを理由として挙げられました。
このような場合,解雇は認められるのでしょうか?

不当解雇

回答

協調性の欠如があれば,それで直ちに解雇できるというものではありません。協調性の欠如により,業務の円滑な遂行に支障が生ずる事態となり,他の従業員の士気に悪影響を及ぼし,あるいは企業秩序を乱す状態となっていることが必要です。したがって,あなたの言動が,再三の注意・指導にもかかわらず改善されず,円滑な業務遂行に支障を来す状況となっているならば,解雇が有効とされる可能性が高いといえます。
ただし,協調性の欠如の判断は,見方によっては個性的・積極的とみうる面もないわけではなく,微妙な点を含んでいます。そのため,あなたの日常の言動のうち,問題となり得るものについて,どのような点が協調性を乱したかを会社が記録上明らかにできない場合は,解雇の無効を主張する余地もあります。

 

解説

企業は,多くの労働者を雇用し,これを組織的に位置づけ,これらの労働者の協同により業務を遂行しています。
したがって,企業の円滑な業務の遂行のためには,各労働者は他の労働者と協調して業務を遂行することが求められます。そこで,ある労働者が他の労働者と協調して業務を行わない場合には,当該労働者は他と協調して円滑に労務を提供するという債務を履行していないこと(不完全履行=債務不履行=解雇理由)になります。
もっとも,協調性の欠如は,見方を変えれば個性的ともみうる場合もありますから,協調性の欠如と判断するには,この点も慎重に見極める必要があります。
なお,一般的にいえば,協調性が欠如している労働者の問題となる言動は,同僚とのトラブルが絶えず円滑に業務を遂行できなかったり,上司に反抗したり,あるいは唯我独尊的な言動により会社の信用を傷つけたりといった形で現れます。
そこで,かかる労働者に対する解雇は,「協調性の欠如」だけではなく,「職務遂行能力を欠く」,「職務不適格」,「上司の指示命令に従わない」,「会社の名誉・信用を傷つけた」,あるいは「その他やむを得ない事由」などの普通解雇事由を定める就業規則の条項を適用されることが多いと言えます。
また,協調性の欠如に起因する労働者の言動は,その態様からみて企業秩序を乱していると認められる場合も多く,その場合は懲戒解雇事由に該当すると判断できることもあります。

 

判決事例

協調性欠如による解雇が無効と判断された例

大和倉庫事件
大阪地決平成4.9.8労判619-61
(裁判所の判断)
Xは,平成3年11月18日,会社と雇用契約を締結し,駐車場従業員として勤務していた。しかし,Xは,他の従業員との協調性に欠け,摩擦・衝突が絶えないこと,雇用保険加入手続に際し,会社の依頼した大阪労務事務所の担当者に対し非礼な態度をとったこと,会社の営業方針に対して批判をくり返すのみで,会社の指揮命令に従わなかったこと等を理由として,Yより平成4年2月13日に解雇された。
裁判所は,Xは,「やや独善的で,些細な物事に拘泥して他を糾弾するような性向が窺われ,これがため債務者(筆者注:会社 以下同)代表者や他の債務者従業員らに疎まれて,これらの者との間で対立を生じ,債務者従業員の一人が,一時,債務者代表者に対し退職の意向を洩らしたこと,債権者(筆者注:X 以下同)が平成4年1月27日,上司井上と面接した際,同人に対し侮辱的な態度をとって同人の感情を害したことがあったことを認めることができる。しかしながら,債権者と他の従業員との対立は,他の従業員が債権者の人格態度に対する漠然とした嫌悪感情を抱いているにとどまり,それ以上に,債権者が他の従業員に対し,具体的な加害行為に及んだり,他の従業員との間に重大な紛争を生じ,あるいは債権者と他の従業員との感情的な対立により債務者の駐車場業務の遂行に現実に著しい支障をきたした事実は認められないし,かつ,債務者の業務は,駐車場に出入りする車両の監視・誘導と料金徴収という比較的単純な作業を主体とするものであって,従業員間の緊密な協調がなければ業務遂行が不可能となる類のものとも認められない。また,債権者が,債務者の具体的業務命令に違反した事実を認めるに足る疎明もない。他方,雇用者たる債務者としては,債権者と従業員との間に右のような感情的対立が存在し,これがため債務者の業務遂行に支障をきたすおそれがあることを認知した場合には,債権者及び他の従業員に対し,適宜,指導・注意等を加えることにより,これを未然に防止し,解雇という重大な事態に陥ることを可能な限り回避すべき立場にあると解すべきところ,債務者は,債権者の前記井上に対する態度について,その翌日に債権者に対し注意を与えた事実は認められるものの,それ以上に,債権者の債務者代表者やその他従業員に対する態度を改善するよう注意等を与え,あるいは債権者とその他従業員との人間関係の調整・修復を図って努力した形跡は窺われない。右の事情を勘案すると,未だ,債権者の性格的欠点が債務者の業務遂行に著しい支障をきたし,また,債務者の努力によっても債権者の欠点を矯正することができず,従業員間の人間関係が修復不可能であるため,債権者を解雇することが真に止むを得ないものとまで言うには尚早というべきであり,現段階では,本件解雇は,解雇権の濫用にあたるものとして許されないと言わざるを得ない。」と判示して,解雇を無効と判断しました。
(コメント)
採用から僅か4ヶ月足らずでの解雇である点,協調性欠如により業務上の具体的支障が生じたとは言えなかった点,解雇回避措置が不十分であった点がポイントになると考えます。

大阪府保健医療財団事件
大阪地判平成18.3.24 労判916-37
(事案の概要)
Yは,大阪府の救命救急センター等に係る受託事業の運営等を目的とする財団法人であり,第三次救命病院として,大阪府立千里救命救急センター(以下,「千里救命センター」)の運営を受託していた。Xは,昭和55年12月1日に,臨床検査技師としてYに雇用され,以後,主として千里救命センターにおいて,血液検査,生化学検査,生理学的検査,輸血学的検査および免疫学的検査などの職務に従事していた(なおXは,平成12年10月3日から同月31日まで,同年11月2日から同月30日まで,平成13年1月5日から同月31日まで,同年2月2日から同月28日まで,同年3月30日から同年4月30日まで,同年5月29日から同年7月31日まで,病気休暇を取得している)。
しかし,Xは,Yから,①臨床検査技師としての能力不足,②職場における協調性の欠如と規律遵守義務の欠落,③医療職としての責任感の欠如を理由に平成16年12月17日解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は,Y主張の解雇理由について「おおむね被告が解雇事由として主張している事実」は認められるとしながらも,しかし,それらの事実は平成13年10月までの事実であるうえ,Xは,平成12年10月頃から平成13年7月にかけて,その多くの期間病気休暇を取得し,その合間にXが出勤した際も,YはXに対し,臨床検査技師としての勤務成績または技能が不十分であるとか,協調性を欠くなどを理由として退職を勧奨したことがないこと,(イ)本件研修の性格は,Xの臨床検査技師としての技能がその要求される水準に達しているか否かを見極めるとともに,水準に達していない場合には改善の機会を与え,それが認められない場合には,解雇を行うかどうかを決定するための資料とする趣旨のものではなかったこと,(ウ)Xは本件研修において,主として眼底検査を中心に研修を受けたが,眼底検査に関しYが主として問題としたことは,受診者に対する声かけの際の話し方や声量が小さいという程度で,患者とのトラブルも認められず,特段注意を受けることもなく,解雇に該当するような事実はなかったこと,(エ)YがXに対して,退職の選択肢もあると示唆するようになったのは,済生会への業務移管後,平成16年3月31日に千里救命センターの管理運営を終了するに当たり,休職中の原告の復職先の意向を調査した頃からであり,Xに対して初めて退職を勧奨したのも,同年6月にXの有給休職期間が切れることからXのリハビリ出勤の可能性について検討した結果,中河内救命センターから受入れを拒否され,その旨を同年7月7日に伝えた際であることなどから,上記の事実を総合考慮すると,YがXを解雇した主な理由は,「新千里病院や千里救命センターに関する業務を済生会に移管したことなどにより,休職中のXを復職させる職場に苦慮し,同年12月からXの復職を認めざるをえなくなったために,Yが主張する過去の事由を解雇事由として解雇したと推認するのが相当」であり,「確かに,Xには,臨床検査技師として,技能に習熟していない点が認められるとともに,協調性を欠く言動が認められるものの,それをもって,直ちに解雇に値するものとはいいがたく,本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当として是認することはでき」ないとして,本件解雇を無効と判断した。
(コメント)
本件は,協調性欠如を一つの理由として解雇がなされた事案ですが,解雇に至る経緯に鑑み,真の解雇理由は協調性欠如ではなかったという事案でした。

協調性欠如による解雇が有効と判断された事例

相模野病院事件
横浜地判平成3年3月12日労働判例583号21頁 (裁判所の判断) Xは看護師免許,助産婦免許を有し複数の病院で勤務した後,昭和53年7月1日,Y病院に雇われた。しかし,Xは,当直者としての任務,医師の指示の履行,他の職員間でなすべき申し送りなどに欠け,数回にわたる配置転換・注意指導を経ても,この欠点を改めることを拒否し,独善的,非協力的な態度をとり続けていたため,他の職員との円滑な人間関係を損ない,看護職員としての不可欠な共同作業を不可能にしてしまったため,Yより「その職務に必要な適格を欠く」として昭和62年2月27日解雇を言い渡された。
判決はこの解雇を有効なものとした。

ユニスコープ事件
東京地判平成6.3.11 労判666-61
(事案の概要)
Xが英国籍を有する外国人であり,Yは,翻訳業務等を目的とし,半導体等に関する日本語の技術文書を英文技術文書に翻訳することを主要な業務とする株式会社であるところ,Xは,平成2年3月28日頃,被告との間で,職種は英文技術文書編集等として雇用契約を締結した。しかし,Xは,納期を遵守しない,業務上の指示に従わない,協調性欠如等を理由に,平成3年7月,Yより解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は,「原告(筆者注:X)の編集者としての勤務状況は,編集者としての能力こそは平均的なものであり,技術文書の編集にあたって度々修正を加える原告のやり方も,高品質の技術文書に近づけようとする原告の意欲に基づくものと推察され,それ自体は非難に値するものとはいえないが,原告の場合には,自己のやり方に固執する余り被告(筆者注:Y)において定められた仕様に従わない態度をとったり,度重なる修正変更を加えたり,あらかじめ合意したスケジュールどおりに仕事を進行させないことによって,他の共同作業者及び管理者に困惑や迷惑を与えたばかりか,共同作業者及び管理者としばしば争いとなったことが認められるから,原告の勤務態度は,非協調的・独善的なものであったものと評価されてもやむをえないものということができる。また,被告における編集者には,当然のことながら顧客との間で取り決められた納期を遵守しようとする態度が要求され,納期に間に合わないような場合においても,そのことを事前に管理者に対して申告し,社内或いは顧客に対する対応措置を求めるなどして,納期に間に合わないことによる混乱を未然に防止しようとする態度が要求されるところ,右認定した事実によれば,原告の仕事はしばしば遅れがちとなり,納期に遅れることが明らかになっても,そのことを納期直前まで編集責任者に告げないために,納期当日になって業務上の混乱を生じさせたことが認められるのであるから,納期を遵守する態度の面においても,これが欠けていたということができる。しかも,前記1で認定した事実によれば,被告代表者は,原告の右のような勤務態度を理由に直ちに原告を解雇したものではなく,原告が被告に勤務していた約1年5か月の間,原告に対し,その勤務態度の問題点を度々指摘して注意を喚起したり,勤務体勢に配慮するなどして,原告の非協調的な勤務態度の改善を求めてきたが,解雇されるまでその勤務態度はついに改善されなかったばかりか,かえって反抗手段としてタイムカードを押さなかったり,無断欠勤をするなどしたことも認められる。以上の諸事情を総合すれば,本件解雇は,合理的理由があり,解雇権の濫用には当たらないというべきである。」と判断した。
(コメント)
業務上の指示を無視した点,協調性が欠如している点,業務上の支障が生じていた点,態度の改善を促していた点,それにもかかわらずXが反抗的態度を示した点等を総合考慮して結論が出されています。

セントラル警備保障(解雇)事件
東京地判平成7.8.29 労判691-103
(事案の概要)
Xは,警備保障を目的とする株式会社であるYに勤務していたところ,Xは就業中,警備保障契約を締結した相手方の社員や来客などにしばしば粗野で乱暴な言動に及び,契約先から苦情が寄せられた,このため,YはXを他の勤務場所に変更したり,配転を繰り返すなどの措置を執らざるをえず,また,上司や同僚らに粗野で礼儀を欠いた態度に出てこれらとの間で諍いを起こしたり,協調性を欠いた行動に出て,上司から再三注意を受けてもこれに従おうとせず,Xの勤務場所を変更するなどの措置を執らざるを得なかったこと,会社の研修を真面目に受けようとせず,無断欠勤や無断早退をするなど勤務態度も怠惰で杜撰であったとして,解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は,XはYに「雇用されてから本件解雇に至るまでの間,勤務態度は不良で,同僚らとの協調性に欠け,上司らの再三にわたる注意・指導にもかかわらず,一向に改善が見られなかったというのである。被告会社は,警備及び安全管理業務の請負並びにこの保障などを営業としていたのであるから,職場秩序確保は格別に重要視されなければならないといえるのに,原告の右のような勤務態度は被告会社の労務管理上到底無視することのできないことであるということができる。」と判示し,解雇は有効であると判断した。
(コメント)
業務上の指示を無視した点,協調性が欠如している点,業務の性質上協調性欠如が業務上の支障となり無視できない点,態度の改善を促していた点,それにもかかわらずXが反抗的態度を示した点等を総合考慮して結論が出されています。

古川製作所事件
東京地判 平成9.7.9 労判720-61
(事案の概要)
Yは,真空包装機等の製造,販売等を業とする会社であるところ,Xは,海外勤務経験等があったため,同経験を生かした営業活動を期待して,採用した。なお,Xは採用面接において,社長室付きあるいは部長等の役職を希望していたが,Yは,とりあえず一年間はXの能力や勤務ぶり等を見定めるために嘱託として採用することにし,平成5年2月1日,雇用期間は平成6年1月31日までの一年間の嘱託として採用した。Yは,嘱託期間中のXの勤務ぶりについて,報告書の内容等がもの足りず,期待していた程ではないと評価していたが,右嘱託期間経過後はXを正社員(平社員)として雇用することにした。これに対し,Xは,平社員であると告げられて強く反発し,部長あるいは営業部主幹との約束であったからこれらの役職につけるようにと執拗に要求し正社員労働契約書の提出を拒み,また,正社員としての採用後は仕事ぶりが不熱心になり,期待された独自の情報収集活動,外訪活動,新規顧客開拓活動などが少なく,他の営業課員との協調性にも欠ける状態となった。Yは,平成6年9月と平成7年5月に部長が勤務態度等を改めるように話したが,Xは営業主幹あるいは部長職につけるよう要求するばかりで勤務態度を変えようとしなかった。そこでYは,これ以上話をしても原告の勤務態度に変更はなく,部長にしない限り労働契約書を提出する意思がないと判断して,平成7年5月22日,同月31日付けでXを解雇する旨の意思表示をした。
(裁判所の判断)
裁判所は,「原告(筆者注:X)は平成6年6月に,高井部長から役職はなく平社員であると告げられて強く反発し,部長あるいは営業部主幹との約束であったからこれらの役職につけるようにと執拗に要求し,自分はいわゆる売り子として雇用されたわけではないから他の営業課員とは異なるし,他方,役職につけず平社員にしかしないというならそれだけの仕事しかできないなどと主張して,期待されている職責を積極的に果たそうとせず,勤務状況が劣るようになり,また,自己の主張に固執して独断的な行動が多く協調性に欠けていて,同年9月及び平成7年5月22日の話し合いにおいても,岡田部長に対して,従前の主張を繰り返し,あくまで部長職を要求し,勤務態度を改めようとの姿勢がまつたく見られなかったのであるから,本件解雇は客観的に相当な理由があり,権利の濫用にあたらず,有効であるというべきである。」と判断した。
(コメント)
業務上の指示を無視した点,協調性が欠如している点,業務上の支障が生じている点,態度の改善を促していた点,それにもかかわらずXが反抗的態度を示した点等を総合考慮して結論が出されています。
なお,Yは,Xが正社員としての労働契約書の提出を拒んだ点を捉えて,正社員としての労働契約が成立していないと主張しましたが,裁判所は,「正社員としての雇用に労働契約書の提出が必要ならば,右合意成立後すみやかに労働契約書を原告に渡すべきであるにもかかわらず,被告が原告に対し正社員用の労働契約書を手交したのは嘱託期間が満了してから4ケ月余りも経過した後であるし,右のとおり既に合意が成立しているところ,その後原告が労働契約書を提出しなかったのは,役職につけてもらえないことが不満であったためで,正社員になることそのものを拒否したわけではないから,労働契約書を提出しない限り正社員ではないというのは被告の一方的な取扱いにすぎないというべきであり,被告の右主張は採用できない。」として,Yの主張を退けました。

日本火災海上保険事件
東京地判平成9.10.27 労判726-56
(事案の概要)
Xは,昭和四五年に大学を卒業後Yに入社し,全国の各支店営業所勤務を経て昭和六〇年四月に代理店部東京研修室(以下「東京研修室」という。)に配属されて研修業務に従事していたが,解雇される直前の平成三年四月に代理店部部付きに異動した。東京研修室は,将来損害保険代理店を営業することが予定されている被告の嘱託社員(代理店研修生)に対する損害保険契約業務の研修教育を管轄する部署である。
しかし,Xの東京研修室在勤期間における勤務態度及び言動は,著しい職務怠慢,業務命令不服従と評されるべきもので,雇用契約の本旨に甚だしく反し,常軌を逸した奇異な言動や極端な非協調性は職場の秩序や人間関係を著しく乱し,従業員のモラルを極度に低下せしめ,ひいては業務の運営に大きな支障を来し,Yはかかる原告の勤務態度や言動にその都度再三に亘って注意,指導しているにもかかわらず,原告はかえってこれに対し反抗的態度をとり,長期間に亘り改める気配は一切なく,将来とも改善の可能性は皆無であり,よって、解雇事由にあたるとして,平成三年七月二六日,原告に対し同月三一日付で解雇する旨の意思表示をした。
(裁判所の判断)
,裁判所は,「原告(筆者注:X)は,東京研修室配属(昭和六〇年四月)以降も,自己中心的で職務怠慢であり,上司の注意や業務命令に対して,あれやこれや述べて反発するばかりで従わず(右一2(五),(六),(七),(一〇),(一一)),非常識な言動がみられ(同(二),(三),(四),(一二),(一四)),昇格異議申立書において,上司・同僚を中傷・誹謗し(同(八),(九),(一五))たもので,このような原告の勤務態度及び言動は,職場の人間関係及び秩序を著しく乱し,業務に支障を来すものと認められる。原告が右勤務態度及び言動について全く反省していないこと及び原告の東京研修室配属以前の勤務態度(右一1)も併せ考慮すれば,原告の右勤務態度及び言動は,旧協約第三四条二号及び三号に該当し,かつ,解雇手続にも瑕疵は認められず,本件解雇は有効であると言うべきである。」と判断した。
(コメント)
業務上の指示を無視した点,協調性が欠如している点,業務上の支障が生じている点,態度の改善を促していた点,それにもかかわらずXが反抗的態度を示した点等を総合考慮して結論が出されています。

山本香料事件
大阪地判平成10.7.29 労判749-26
(事案の概要)
Yは,香料の製造販売,化粧品,石鹸原料の販売等を主たる目的とする株式会社であるところ,Xは,平成6年11月28日,期間の定めなく,調香師として被告会社に雇用された。しかし,Yは,Xの種々の言動は,部下の上司に対する言動としての程度を超えており,また,職場の秩序を乱すものであるとして就業規則違反行為ならびに懲戒処分該当事由があったことを理由に平成7年6月26日,原告を解雇する旨の意思表示をした。
(裁判所の判断)
裁判所は,「認定した個々の事実については,その一つをとって解雇事由とするには,いずれもいささか小さな事実にすぎない。」としながらも,「原告(筆者注:X)は,その上司に当たる被告丙や経理担当課長の被告丁に反抗的であり,過激な言辞を発してその指示に素直には従わず,また,Kに対しても,不穏当な言動をしているのであるが,これらを総合すれば,原告には,総じて,上司たる被告丙や被告丁に反抗的で,他の従業員に対しても,ときに心目的な対応をする傾向があったといわなけれぱならない。その原因としては,攻撃的な原告の性格面に加え,原告にはフランスの著名な香料学校の出身であるという自尊心が高く,被告代表者乙山太郎の信頼を得て,東京研究室の重要なポストを与えられることになっていたのに,その開設に,被告丙及び同丁が協力的でないと考えていたことにあるかと思料され,また,平成7年1月31日の事件以後の感情的なしこりが存在していたことも否めないが,これらを考慮しても,原告の種々の言動は,部下の上司に対する言動としてみれば程度を超えており,被告丁やKに対する言動も職場の秩序を乱すものといわざるを得ない。そうであれば,原告を解雇した被告会社の措置は,その効力を否定することはできず,これを解雇権の濫用とする事由もない。」と判断した。
(コメント)
協調性が欠如している点,態度の改善が見込まれない点等を総合考慮して結論が出されています。但し,採用から解雇まで7ヶ月足らずであること,改善指導を繰り返した等の事実が認定されていない点,判決が認定した事実だけでは業務上の支障が他の裁判例(解雇有効)と比較して小さいとも思えることからすると,X本人尋問でのXの印象が余程悪く,それが弁論の全趣旨として考慮されたと推測されます。

高島屋工作所事件
大阪地判平成11年1月29日労働判例765号68頁
(事案の概要)
Yは家具の製造販売およびインテリアの設計施工等の事業を営む会社であるところ,Xは昭和48年11月1日Yに雇用され,家具販売事業部大阪販売部統括課に勤務していた。しかし,Xが,上司から担当業務以外の高度の業務を指示されてもこれを拒否したこと,催事セールへの応接指示に対し,「忙しい」として拒否しながら催事に顔を出し応接もせずにぶらぶら見て回るなどしたこと,同僚・上司からのミスの指摘に対しても,これを否定するか,あるいは「人間誰でもミスはある」と開き直ったり,同僚と意見が食い違う場合には相手を大声で罵倒したりしたこと,さらに,配転の無効を争う等,これまで9回の訴訟を提起したほか,平成2年以降15回の苦情処理機関等に対する苦情の申立てを行っており,これらの準備作業の多くを就業時間内に行っていること等を理由として,平成7年4月11日,Yより普通解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は,Xには誠実に業務を遂行しようとする意欲や,上司の指揮命令に従って業務を遂行しようとする意識ないし同僚と協調して職務を遂行しようとする意識が著しく欠けており,また,訴訟提起や苦情処理機関等に対する苦情申立てを繰り返したこと等は,企業の従業員としていささか限度を超えたものといわざるを得ず,自らの価値基準のみに従い,協調性の欠如を示すものということができると認定した。
その上で,Xが「上司の指揮命令に従って誠実に業務を遂行しようとする意識ないし同僚との協調性を欠いており,職業人ないし組織人としての自覚に著しく欠けている状況に鑑みれば,本件解雇は合理的なもので,著しく社会的相当性を欠き解雇権を濫用するものであるとはいえない」と判示して,解雇を有効と判断した。
(コメント)
勤怠不良な点,協調性が欠如している点及び勤務成績が著しく低い点も併せて,本件解雇は合理的なもので,著しく社会的相当性を欠き解雇権を濫用するものであるとはいえないというべきであると判断しています。

カルティエ・ジャパン事件
東京地判平成11年5月14日労働経済判例速報1709号25頁
百貨店に出店する宝飾店の販売員が,接客態度が悪く,気にくわないことがあると理由もなく部下を怒鳴りつける,また百貨店の担当者から注意されても,くってかかり自分の非を認めないなど協調性を欠き,百貨店から当該販売員を替えるよう申し入れられるに至ったため,「故意又は過失により業務上重大な失態があったとき」,「会社の信用・体面を傷つけるような行為があったとき」に該当するとしてなされた解雇を有効とした。

リアテック事件
大阪地決平成13年11月20日労働経済判例速報1791号22頁
コンピュータ関連機器のソフト開発・販売会社の営業担当社員が,トラブル発生時において,保守担当者に責任を転嫁する発言をするため顧客から苦情が寄せられる状態となり,保守担当者からそのことを伝えたにもかかわらず改まらず,また,技術担当者が担当する業務について,事前に相談あるいは報告することがないまま勝手な判断で話を進めるため技術担当者が顧客から不備を指摘され,あるいは会社方針に従わず,独善的な営業活動を行い,他の営業担当者や他の従業員へしわ寄せがいくようになったため,「協調性に欠け,自己中心的である」との理由で行った解雇は,やむを得ないものであり,解雇権の濫用とはいえず,有効とした。

テレビ朝日サービス事件
東京地判平成14年5月14日労働経済判例速報1819号7頁
保険業務等を営む会社の保険部に所属する社員が,ささいなことから興奮し,同僚や上司の人格を傷つける言動をすることが頻繁にあり,上司から注意されても,反省の態度を示さず,同様の言動を繰り返しており,これによれば「同僚と協議して業務を遂行する意思や自制心を著しく欠いており,会社の業務の円滑な遂行の支障になる程度に達してい」たとし,その他勤務成績・勤務態度等が著しく不良であることも認定した上で解雇を有効とした。

セコム損害保険事件
東京地判平成19年9月14日労働判例947号35頁
〈事案の概要〉
被告は,損害保険業を営む株式会社であり,Xは,平成17年4月1日に,被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結して,損害サービス業務部メディコム・ナースコールセンターに配属され勤務していた。 しかし,Xは,①「礼儀と協調性に欠ける言動・態度により職場の秩序が乱れ,同職場の他の職員に甚大なる悪影響を及ぼした」こと,②「良好な人間関係を回復することが回復不能な状態に陥っている」こと,③「再三の注意を行って」きたが改善されないこと,の3点であり,これらはそれぞれ就業規則に著しく違反する行為であり,改善が見込めないことを理由に,平成18年4月11日,被告より解雇(即時解雇)するとの意思表示を受けた。
〈裁判所の判断〉
本判決は,まず,Xの被告会社入社から本件解雇にいたるまでの間の,被告社内でのXの言動,これに対する被告の,Xへの指導・注意・警告,職制の対応状況などを詳細に検討している。そこでは,Xが入社当時から問題行動や言辞を繰り返し,上司に対して「課長を何年やっている」,「課長の資格はない」とか「社長が人様の前で頭を下げる日は近い」などと発言したり,職場ミーティングにおいて同僚と対立的な状況を作り出し「みんな生活がだらしない。そこから変えた方がいい」など発言し,それに対する上司からの指導・業務指示にも拘わらず是正せず,職制批判・会社批判を続け周囲の人間との軋轢状況を招いていたと認定された。
そのうえで本判決は,「このような原告の職場における言動は,会社という組織の職制における調和を無視した態度と周囲の人間関係への配慮に著しく欠けるものである。そして,原告がこのような態度・言辞を入社直後からあからさまにしていることをも併せ考えると,原告自身に会社の組織・体制の一員として円滑かつ柔軟に適応していこうとする考えがないがしろにされていることが推測される。換言すれば,このような原告の言動は,自分の考え方及びそれに基づく物言いが正しければそれは上司たる職制あるいは同僚職員さらには会社そのものに対してもその考えに従って周囲が改めるべき筋合いのものであるという思考様式に基づいているものと思われ」,そのために,ことごとく会社の周囲の人間からの反発を招き,そのことにX自身も気がついているにもかかわらず,「自己の信念なり考え方に原告は固執して,自己の考えなり立場を周囲の人間に対して一方的にまくし立てて周囲の人間の指導・助言を受け入れたり従う姿勢に欠けることが顕著である」とした。
そして,このことからすれば,「原告の問題行動・言辞の入社当初からの繰り返し,それに対する被告職制からの指導・警告及び業務指示にもかかわらず原告の職制・会社批判あるいは職場の周囲の人間との軋轢状況を招く勤務態度からすると,原被告間における労働契約という信頼関係は採用当初から成り立っておらず,少なくとも平成18年3月末時点ではもはや回復困難な程度に破壊されているものと見るのが相当である」として,「被告による原告に対する(原告の礼儀と協調性に欠ける言動・態度を理由とする)本件解雇は合理的かつ相当なものとして有効であり,解雇権を濫用したことにはならない」とした。
(コメント)
Xは,会社側(上司や同僚)の言動にも問題があり,自己の言動は正論であると反論しましたが,裁判所は,「原告の言動として問題とされているのは,原告と会社の他の人間あるいは会社側のいずれの方がその当時言っていることが正しいかということではなく,原告の言い分がある程度正論であったり,あるいは会社を良くするためという意思に発したものだとしても,その物の言い方なり,会社批判あるいは職制批判さらには自分の所属部署の上司に当たるB,Aについて人事のDにあからさまに苦情・報告する行動態度にある。自分の言っていることが間違ったことでなければ何を言ってもいいことにならないのは社会人として常識であるところ,原告の勤務態度は客観的に見て自己中心的で職制・組織無視の考え・行動が著しく,非常識かつ度を超したものと評価せざるを得ないレベルにある。」と判示し,正論であっても言い方に問題があるとした点が特徴的です。
また,会社は解雇通知書において,懲戒解雇事由についての終業規則上の条文を引用していたので,Xは懲戒解雇の無効を争っていた。この点,判決では,「確かに,被告が,当初は懲戒事由を示して本件解雇を原告に通告していることからすると,解雇以前に他の懲戒処分を選択して原告の問題行動への警告なり段階的な処分を得て解雇に至ることが望ましいといえる面はある。しかし,被告が何等の警告・指導もせずして本件解雇に至っているとしたら問題であるが,本件では懲戒処分という形ではないにしても職制を通じた通告書による指導,業務指示,あるいは人事部門や上位職制である業務部長からも指導・警告を受けるに至っている状況に照らすと,被告が他の懲戒処分を経ていないことの一事をもって適正手続違背であるものとは評価しがたい。何よりも,原告のそれまでの言動が,被告の職場の特定個人との相性の悪さとか人的確執の積み重ねによるものではなく,原告の仕事なり職場に対する考え方や世界観に発した組織と相容れないものから導かれていることからすると,本件解雇時点で,他の懲戒処分を試みる必要性に乏しく,原告の言動の修正は平成18年3月末時点においてはもはや期待できない状況にあったものと考えられる。また,当初懲戒解雇と通告しておきながらその後普通解雇であると主張しているところには,処分の性格の就業規則に照らしたあいまいさが残るものの,本件解雇の趣旨は,懲戒解雇の意思表示の中には普通解雇をも包含するものと解釈することも可能であり,本件解雇が懲戒解雇ではなく普通解雇として何等効力を持ち得ないものとまではいうことができない。解雇事由としても本件解雇時までのものとして双方が攻防を展開しているところにしたがって判断した場合に,本件解雇を懲戒解雇ではなく普通解雇として原告が受け止めたとしても攻撃防御上の支障が生じているとは考えがたい。なお,懲戒解雇としては就業規則に明示されたものでなければ原則として当該規則に則った処分をすることができないものというべきところ,普通解雇は通常の民事契約上の契約解除事由の一つとして位置づけられ,就業規則に逐次その事由が限定列挙されていなければ行使できないものではない。本件で被告は就業規則の第53条5号の制裁のため必要なときを解雇事由としているところ,要は原告の社内における組織規律違反が顕著であることとそのことによる従業員としての適格性の欠如が顕著であることから懲戒事由に当たるものを普通解雇したと考えることができる。」と判示し,Xの主張を退けました。この点は,懲戒解雇の普通解雇への転換を認めるものと評価できますが,学説の多くはこれを否定し,裁判例でもほとんど認められていないことから,微妙な問題を含むと言えます。