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解雇を理由に慰謝料等損害賠償を請求できるか?

解雇を理由に慰謝料等損害賠償を請求できるか?

事例

私は,会社から不当解雇されたため,解雇は無効であると主張して,会社に対し慰謝料を請求したいと思っています。この場合,慰謝料請求は可能でしょうか。また,一般に不当解雇の場合,会社からどれくらいの金額の金銭的保障をさせることが認められるのでしょうか?

不当解雇

回答

解雇の要件を満たさない解雇は無効ですが,解雇が無効であることから当然に慰謝料請求が認められるとは限りません。裁判では,解雇の違法性が著しい場合に限って,慰謝料請求が認められるといえます。ただし,慰謝料以外の金銭的な保障をさせることができます。

 

解説

1 地位確認・賃金請求に加えて慰謝料請求をする場合

まず,解雇の無効を根拠に地位確認(職場復帰)・賃金の支払いを求めるとともに,慰謝料請求をする場合があります。この場合,金銭的請求は以下のとおりとなります。
① 解雇以後の賃金
解雇が無効の場合,解雇後も雇用契約が継続していることになり,当然,賃金の支払義務は発生し続けることになります。会社は解雇後は賃金を支払わないでしょうから,解雇後から解決時までの賃金を遡って請求することができます。例えば,解雇から半年後に解決したような場合は,半年分の賃金を遡って請求することが可能です。
② 慰謝料
違法な解雇,退職強要等により労働者に精神的損害が発生し,不法行為の要件を満たす場合は,慰謝料請求が可能です。但し,不当解雇が当然に不法行為になるとは限りません。例えば,解雇は解雇権濫用で無効とし,地位確認・賃金請求を認容しつつ,解雇は不法行為にはならないとされることがあります。但し,解雇の違法性が著しい場合には,慰謝料請求が認められます。裁判例では,概ね50万円~100万円程度の慰謝料が認められています。

2 地位確認・賃金請求をせずに,損害賠償請求をする場合

会社への復職は望まない場合など,地位確認(職場復帰)・賃金請求をせずに,損害賠償請求だけをする場合,次のような損害賠償請求が考えられます。
① 逸失利益の損害賠償
違法な解雇,退職強要等により退職に追い込まれなければ,当該企業での勤務を継続することで得られたであろう賃金相当額のことです。セクハラにより退職に追い込まれた事案等で認められることが多く,裁判例では概ね約6ヶ月分の賃金相当額が認容されているようです。
② 慰謝料請求
違法な解雇,退職強要等により労働者に精神的損害が発生し,不法行為の要件を満たす場合は,慰謝料の損害賠償請求が可能です。但し,裁判例としては,セクハラ事案では高額な慰謝料額が認められた事案もありますが,その他の場合には,それほど高い水準の賠償額は認められていません。
③ 会社都合の退職金との差額
違法な解雇,退職強要等により退職した場合は,自己都合退職の退職金しか支払われないことが多いですが,会社都合退職金との差額を請求することも検討の余地があります。
④ 弁護士費用
上記の損害が認定された場合は,弁護士費用についても損害として認められることが多いです。

3 損害賠償請求の構成を取ることの当否

会社に対して不当解雇を争う為の法律構成としては,上記1のとおり①地位確認・賃金請求に加えて慰謝料請求をする法律構成と上記2のとおり②地位確認・賃金請求をせずに,損害賠償請求をする構成があります。では,どちらの構成をとるべきなのでしょうか?
確かに,②の法律構成であっても,裁判例でもそれなりの賠償額が認められた例もあります。
しかし,裁判例では,②の地位確認・賃金請求に代えて不法行為による損害賠償請求を請求した場合につき,一定期間の賃金相当額を逸失利益と認めたものと認めなかったものがあります。理論的に言えば,解雇権の濫用にあたる解雇は無効であり,労働者は解雇期間中の賃金請求権があるのですから,逸失利益の損害賠償請求ではなく,賃金請求そのものをなすべきとも言えます(菅野和夫「労働法」(第9版)P489)。
もっと言えば,①の法律構成をとる場合と②の法律構成をとる場合では,①の方が会社に求められる金銭的な補償総額(慰謝料金額も含め)が高くなる傾向があると言えます。
従って,依頼者が復職を望まない場合であっても,損害賠償請求の構成をとることは,よく検討する必要があります。

 

 

判決事例

整理解雇が無効,違法とされ,地位確認請求,賃金・賞与支払請求のみならず慰謝料請求も認容された事例

東京自動車健康保険組合事件
東京地判平成18.11.29労働判例935-35
(事案の概要)
Yは,健康保険法に基づき設立された公法人であり,国の健康保険事業全般を代行することを主たる業務としているところ,Xは,平成10年12月21日,Yとの間で,期間の定めなしとの約定で労働契約を締結してYに入社し,同日以降,総務課勤務を命じられた。
しかし,Yは,平成17年4月28日,Xに対し,「事業の運営上のやむを得ない事情により,健康相談室の廃止を行う必要が生じ,他の職務に転換させることが困難なため」という理由で,解雇予告を行い,同年5月31日をもって解雇した(以下,「本件整理解雇」という)。
(裁判所の判断)
裁判所は,「一般に,解雇された従業員が被る精神的苦痛は,解雇期間中の賃金が支払われることにより慰謝されるのが通常であり,これによってもなお償えない特段の精神的苦痛を生じた事実が認められるときにはじめて慰謝料請求が認められると解するのが相当である。これを本件についてみるに,・・・①本件整理解雇は,被告(筆者注:Y)において,退職金規程の改定,健康相談室廃止などの施策を実施しようとしたところ,これに反対する原告(筆者注:X)が外部機関に相談すること等を快く思わず,整理解雇の要件がないにもかかわらず,本件整理解雇を強行したこと,②原告は本件整理解雇時妊娠しており,被告は当該事実を知っていたこと,③原告は被告に対し本件整理解雇を撤回し,原職に復帰させるよう要求したが拒否されたことが認められる。以上によれば,原告は,本件整理解雇により,解雇期間中の賃金が支払われることでは償えない精神的苦痛が生じたと認めるのが相当であり,本件整理解雇の態様,原告の状況等本件証拠等から認められる本件整理解雇の諸事情に照らすと,その慰謝料額は100万円が相当であり,当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。よって,原告の慰謝料請求は100万円の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し,その余は理由がないのでこれを棄却することにする。」とした。

不当解雇による不法行為に基づく派遣元会社への損害賠償請求につき,逸失利益125万余円(年収1年分相当)と慰藉料15万円が認められた例

S社(派遣添乗員)事件
東京地判平成17.1.25労働判例890-42
(事案の概要)
Yは,主に旅行ツアーの添乗員の派遣を業とする株式会社であるところ,Xは,Yとの間で,平成9年3月24日,雇用契約である派遣基本契約(以下,「本件基本契約」という。)を締結し,このほか個々の派遣業務ごとに雇用契約を締結して海外旅行の添乗業務等に従事していたが,平成13年ころからは,Xの希望により,主に株式会社A社(以下,「A社」という。)が企画するパッケージツアーの添乗員として派遣されるようになった。
しかし,Yは,平成14年10月31日,添乗員としての適格性が著しく欠けていることを理由に,本件基本契約を解除してXを解雇(以下,「本件解雇」という。)した。
Xは,Yに対し,均等法21条2項の指針を実施していない,(A社の従業員からのセクハラ行為に関する)セクハラ委員会への申立手続への協力を拒否した,委員会への申立てを理由に添乗業務のアサインにおいて不利益に扱ったことが職場環境配慮義務違反として不法行為を構成する,ならびに不当解雇が不法行為を構成すると主張して,職場環境配慮義務違反のうち派遣業務の減少による賃金減額分31万6316円,解雇による減収として年収1年分125万1800万円(平成13年度の年収),慰謝料100万円の合計256万8116円,および遅延損害金の支払いを求めた。
(裁判所の判断)
裁判所は,「被告会社(筆者注:Y)が指摘する原告(筆者注:X)の勤務態度のうち問題があると認められるものは,結局,平成14年8月11日出発のツアーの前日ころに被告会社に対して行きたくない旨の文書をファクシミリ送信したことと,同年9月11日出発のツアーに関するA社前橋支店の担当社員からのクレームに関する件のみであり,これらの態様や,被告会社に与えた業務上の支障の有無・程度等を考慮すると,本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠いており,社会通念上相当なものとは認められないから,権利の濫用として無効かつ違法であるといわざるを得ず,原告に対する不法行為を構成する。」,「損害額 (ア)逸失利益 原告の賃金は予め定められた日当(本件解雇時は1万2500円)に実際の添乗日数を乗じたものとされていたこと,平成12年1月から平成14年10月までの原告の平均月収は9万2700円であること,本件基本契約の当初の契約期間は1年間であったが,特段の更新手続が行われないまま5年半以上が経過しており,本件解雇がなかったならば,原告が以後相当期間にわたって被告会社に勤続していた可能性が高いと考えられることからすれば,本件解雇と因果関係のある原告の賃金相当逸失利益は少なくとも原告の主張する125万1800円以上であることが認められる。(イ)慰謝料 これまで被告会社が本件解雇の理由として主張してきた内容や,その大半が事実に基づくものとは認められないこと,原告が従事した添乗業務の回数・内容,勤続年数等諸般の事情を考慮すると,本件解雇により原告の被った精神的損害の慰謝料としては15万円が相当である。したがって,原告の被告会社に対する不当解雇による不法行為に基づく損害賠償請求は,140万1800円の支払を求める限度で理由がある。」とした。
(コメント)
A社の従業員のXに対する不法行為(セクシュアル・ハラスメント)の成否については,本判決は,A社の従業員がXの添乗業務に直接の影響力を及ぼしうる立場になかったこと,むしろXとA社の従業員が一時は個人的に相当親しい間柄にあったことが推認されること,ホテルに行った際のXの供述に重大な疑問点があること,A社の従業員の供述が全く不自然なものでもないこと等から,Xの供述は信用することができないとして,Xの損害賠償請求を退けました。
また,Yの職場環境配慮義務違反については,均等法21条2項の指針は使用者の努力義務を定めたものにすぎず,セクハラ委員会への申立てについては,Yはその立場からなしうる範囲でXに協力したと評価でき,アサインに関しても,添乗業務が減少したのはセクハラ委員会への申立てが理由だとは推認できないとして,Xの請求を退けました。他方で,不当解雇による不法行為の成否については,Yが指摘するXの勤務態度について問題のあるものもあるが,その態様やYに与えた業務上の支障の有無・程度等を考慮すると,当該解雇は客観的に合理的な理由を欠いており,社会通念上相当なものとは認められず権利濫用として無効かつ違法であるとして,Xに対する不法行為を構成するとして,その損害額を,Xの請求のうち,逸失利益125万1800円,慰謝料15万円の合計140万1800円と認定しています。

本件解雇によるXの損害額の評価につき,退職時の給与の6か月分をもって違法な解雇との相当因果関係があると解するのが相当とされた例

インフォーマテック事件
東京地判平成19.11.29労働判例957-41
(事案の概要)
Yは,IT分野のマーケットリサーチ等を業とする株式会社であるところ,Xは,昭和60年6月20日からYに正社員として採用された。
しかし,Yは,著しい経営悪化に伴う業務縮小を理由に,平成18年3月31日,Xを解雇した(以下,「本件解雇」という。)。
(裁判所の判断)
裁判所は,「本件解雇が行われた平成18年3月8日までのプロセスを見て特徴的なことは,20年以上被告会社(筆者注:Y)に就労して特に責めに帰すべき事情の見当たらない原告(筆者注:X)に対し,被告会社が整理解雇を行うについて,その理解と納得を得ようとした形跡が認められないことである。A取締役は,当初から整理解雇をするのが適当であるとの思いを持って,賃金を70%減額するという提案をし,不正確な被告会社の業績に基づく説明をし,10日余りの交渉の中で,会社の客観的な状況の説明を客観的な資料に基づいて説明することなく,解雇の時期についての原告の提案に理解を示すこともなく,上記判断のとおり,明らかに支払義務を負うべき退職金の支払まで拒絶するというものであって,その一貫した態度は,対等の契約当事者として,整理解雇を行う際の使用者の態度とはかけ離れているものといわなければならない。以上のような本件解雇をした際の被告会社の状況,解雇の経緯からすれば,本件解雇自体が権利濫用に該当するものであり,不法行為に該当するという評価を受けることは明白であるといわなければならない。」,「損害賠償額 原告は,違法な本件解雇により,約20年間続いてきた被告会社からの収入を絶たれ,その年齢から見ても再就職が困難な状況に置かれたことを考慮すれば,退職時の給与の6か月分を以て,被告会社による違法な本件解雇との相当因果関係があると解するのが相当である。被告会社は,失業手当の給付を受けているから,その分を損害額評価に反映すべきであると主張するが,失業手当は,社会政策上の理由から,退職の理由を問わず認められる制度であることから,被告会社の上記主張を採用することはできないし,損害額の評価を動揺させる事情ではない。また,被告会社は原告に対し,いったんは,1か月分の給与相当額を支給したものの,これは原告が返却し,被告会社がこれを受領したことは当事者間に争いがないのであって,これも損害額の評価を左右する事情ではない。原告は,本件解雇により精神的苦痛を受けたとして,慰謝料の請求をする。しかしながら,本件解雇は違法であるとしても,原告は,自己責任の帰結として,被告会社との間で自らの意思によって雇用契約関係を締結しているのであり,上記判断のとおり,本件解雇後の相当期間の得べかりし利益の損害賠償が肯定される本件において,さらに精神的苦痛を損害賠償として認めるのは相当でないので,この点に関する原告の主張は採用することができない。」とした。

解雇は不法行為に該当するとして,慰藉料と弁護士費用請求の限度で,損害賠償請求が認容された事例

吉村・吉村商会事件
東京地判平成4.9.28労働判例617-31
(事案の概要)
Y1及びY2は,いずれも服飾生地の販売等を主たる業とする株式会社であるが,Xは,昭和43年Y1に雇用され,その後昭和57年4月1日からY2に6年間在職して同社の営業業務を統括し,昭和63年4月,再びY1に帰って就業していた(以下,XのY1での勤務のうち,昭和43年から同57年までを「前期」,同63年4月以降を「後期」ということがある。)。
しかし,Y1は,Xに対し,Y1に対する批判的言辞を理由に,平成3年4月23日到達の内容証明郵便で懲戒解雇(以下,「本件解雇」という。)の意思表示をした。
(裁判所の判断)
裁判所は,「本件解雇について判断するに,原告(筆者注:X)が被告東京吉村(筆者注:Y1)における勤務につき不満をもっていたことが窺われないではないが,被告ら主張のような攪乱行為を行ったことは,これを認めるに足りないから,その余の点について判断するまでもなく,本件懲戒解雇には理由がない。したかって,本件解雇が効力を生ずる余地はないから,被告ら主張の退職金不支給条項の適用がないことは明らかである。」,「被告東京吉村によってなされた本件解雇は,・・理由のないものであるから,他に特段の事情が認められない以上,それは原告に対する不法行為を構成する。しかし,被告大阪吉村(筆者注:Y2)と被告東京吉村が同一であるとはいえないことは前記のとおりであり,他に特段の根拠のない本件にあっては,被告大阪吉村も含めた共同不法行為とすることはできない。」としながら,「原告が本件解雇の効力を争って被告東京吉村に対する自己の雇用契約上の地位を主張した形跡はなく,むしろ,原告が同被告に愛想を尽かせて確定的に他に就職したことは原告の自認するところであり,そうであれば,原告の同被告に対する労務提供の可能性は少なくとも,右就職の時点で失われたものといわなければならず,他方,右就職までの間,原告が,本件解雇が無効であるとして同被告に対する労務提供を継続していた期間が存在したとしても,その期間については,賃金請求権があるものというべきであるから,いずれについても賃金請求権の喪失を理由とする賃金相当額の賠償請求は失当である。原告は,定年まで被告東京吉村に継続勤務することが確実であったからその場合に得べかりし退職金と雇用契約に基づいて請求する前記退職金との差額が損害となると主張するが,本件解雇がなかったときにも原告が定年まで勤務を続けたであろうかどうかは,かなり不確かな事実である。前示のように,原告が在職中から同被告での勤務に関して相当の不満をもっていたことが窺われることからすると,本件解雇がなくとも原告が他に転職するなど同被告での勤務を継続しない可能性も否定することができない。のみならず,違法解雇による損害という観点からみると,退職金相当額の損害なるものについても,前記賃金の場合と同様,当該使用者への労務提供が可能な状態を継続していることが相当因果関係肯認のために必要であるというべきであって,それが失われた場合には,退職金を受け得べき期待利益の喪失は当該違法解雇との相当因果関係を欠くことになると解するのが相当である。さらに,当該解雇が不法行為を構成し,また無効と解される場合には,当該労働者は,雇用契約上の地位を継続的に有しているものというべきであるから,解雇無効を前提としてなお労務の提供を継続する限り,逐次当該期間に対応して潜在的に発生し得べき状態にある退職金債権は失われることはなく,この場合には,当該労働者は退職金請求権を退職の時点で取得することになるから,特段の事情のない限り,退職金請求権の喪失をもって損害とする余地はないことになる。そうしてみると,この点の原告の主張も採用の限りでない。」,「慰藉料に関しては,前示諸般の事情を総合考慮し,原告の本件解雇による精神的苦痛を慰藉するためには40万円をもって相当と認める。以上のとおり,本件不法行為による損害として本件主張及び立証の上で認定し得るものは右慰藉料のみであるところ,弁護士費用については,諸般の事情を考慮し,本件不法行為と相当因果関係のある損害として5万円が相当であると認める。」とした。
(コメント)
本件は,会社に対する批判的言辞を理由に被告A社を懲戒解雇された原告が,被告A社と,原告が6年間を勤務したことのあるA社の系列会社である被告B社を相手として,(イ)懲戒解雇の無効確認,(ロ)「会社都合」による解雇に対する支給率とA・B両社での勤続年数を通算した計算式による退職金の支払い,(ハ)不法行為に基づく損害(逸失利益+慰謝料+弁護士費用)賠償の支払いを請求したものです。本判決は,被告A社との関係で,(ロ)の請求と(ハ)の請求の一部(慰藉料+弁護士費用)を認容しましたが,(イ)の請求を却下し,被告B社との関係では請求を棄却しました。

解雇は無効であるが,労働条件等の改善要求は性急であり,上司,同僚の共感を得られたとはいえず,本件解雇を不法行為または債務不履行にあたるとした慰謝料請求に理由がないとされた事例

トーコロ事件
東京地判平成6.10.25労働判例662-43
(事案の概要)
Yは,学校に納める卒業記念アルバム等の製造等を業とする株式会社であり,Xは,平成3年7月11日,Yと期間の定めのない雇用契約を締結した。
しかし,Xは,Yの時間外労働に関して異議の申立てを行ったところ,平成4年2月20日,Yより解雇された(以下,「本件解雇」という。)。
(裁判所の判断)
裁判所は,「被告会社(筆者注:Y)の原告(筆者注:X)に対する本件解雇は,普通解雇であるとしても,解雇事由が存しないか,あるいは解雇権の濫用に当たるものとして無効というべきである。しかし,本件解雇に至った経過をみると,原告は,平成3年11月8日頃の中途採用者研修や同月9日の激励会において,繁忙期間中の有給休暇取得問題に関し,b総務部長を公然と非難し,その後,人事考課の自己評価を拒否し,被告会社の上層部に秘密で本件手紙を配付し,本件手紙の配付問題についてb総務部長に謝罪を申し入れる文書を交付し,なおこの間,友の会を通じた話合いも拒否するなど,その残業中止等の労働条件改善要求は余りに性急であり,必ずしも職場の同僚や上司の理解・共感を得られたとはいえないこと,被告会社は,本件解雇後,仮処分命令に従って賃金仮払いに応じてきていること,原告が被告会社に勤務し始めてから本件解雇に至るまでの期間は8か月に満たないこと,原告は独身であること等諸般の事情からすると,原告の受けた精神的苦痛は,原告について雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認し,かつ被告会社に対して賃金の支払を命ずることによって慰謝されるべき性質のものであると認められるから,本件解雇を不法行為あるいは債務不履行に当たるとして慰謝料の支払を求める原告の請求は,理由がないというべきである。」とした。
(コメント)
同事件の控訴審判決(東京高判平成9.11.17労働判例729-44)は,一審判決を全面的に支持しています。

使用者の一連の行為に対する慰謝料請求について,不法行為を構成するほど悪質とはいえないとして棄却された事例

明治ドレスナー・アセットマネジメント事件
東京地判平成18.9.29労働判例930-56
(事案の概要)
Yは,(旧)明治ドレスナー・アセットマネジメント株式会社と明治ドレスナー投信株式会社とが平成12年7月に合併した株式会社であり,投資顧問,投資信託委託等を業とする。(旧)明治ドレスナー・アセットマネジメント株式会社は,平成10年7月,明治生命保険相互会社(現・明治安田生命保険相互会社)傘下の明生投資顧問株式会社と,ドイツのドレスナー銀行グループ傘下のドレスナーRCM投資顧問株式会社が合併して設立された。
Xは,昭和49年4月,大学を卒業すると同時に安田信託銀行に入行し,同行での勤務を続けた後の平成元年5月に,明生投資顧問株式会社に入社したものであるが,上記各合併に伴い,(旧)明治ドレスナー・アセットマネジメント株式会社,及びYでの勤務を継続してきた。
しかし,Xは,平成16年2月18日に退職勧奨を受け,同年3月1日以降,自宅待機を命じられ,その1年4か月後の平成17年6月30日,Yより普通解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は,「・・本件給与減額及び本件解雇がいずれも無効であるというべきところ,これら及びそれにまつわる被告(筆者注:Y)の対応が原告(筆者注:X)に対して不法行為を構成するかどうかはさらに慎重に検討を要するものである。原告は,被告が原告に退職勧奨をして自宅待機にした後,退職条件の交渉をしたが,条件なり考え方が折り合わずこれに応じない原告に対して,意図的に経費不正請求の話を蒸し返して退職を半ば強要し,それでも応じない原告を不当に解雇したと主張する。しかし,・・被告においても営業利益の減少が続いている状況にあり,経費削減,とりわけ経費の中で比較的大きな割合を占める人件費の削減の必要性があると経営判断して社員への退職勧奨に出た行為自体を責めることはできないこと,・・原被告間では組合を通して平成16年3月以降団体交渉及び事務折衝を重ねており,その交渉経過に照らして,不幸にして当事者間に合意が成立してはいないものの,不誠実であるとか強引な手法による交渉態度であるといった評価をすべき事情が特に見受けられないこと,交渉途中で被告の代理人弁護士が交替しているものの,弁護士による事情把握とその評価の仕方には自ずと差異があり,そのため交渉の方針が前の代理人と変わることもあり得ないことではないこと,被告が原告の業務活動費及び事務打合せ会費の請求を問題視しはじめたのは団交をはじめて間もなくの平成16年4月からであることなどからすると,必ずしも原告が主張するように不当に意図的に経費請求のことを持ち出して退職を強要したとまではいえないものというべきである。そして,原告の自宅待機が長期間に及んだのも,当事者間で組合を通じた団体交渉をはじめて間もなく,原告の経費不正請求の問題が取り上げられ,会社から関係者への事情聴取を重ねたり,その後も団体交渉あるいは事務折衝をしていることによるものと考えられることからすると,不法行為を構成するような不当性が被告には特に窺われない。また,本件給与減額についても,実際の稼働のないまま原告の給与レベルを維持することが被告の経営事情や他の退職勧奨者との均衡上望ましくないと考えた被告の対応にも経営上からは分からなくはないところがあり,後記のように原告は差額賃金等の支給を本件で受けることになれば,本件給与減額による原告の不利益は救済されるのであるから,被告の上記対応が原告に対する関係で不法行為を構成するほど悪質であるとまでは評価できないものというべきである。それゆえ,原告の慰謝料及び弁護士費用の請求には理由がない。」とした。
(コメント)
本件は,投資信託・投資顧問等を業とする被告Y社で,年金受託セールスを担当する営業第三部の部長として勤務していた原告Xが,退職勧奨を受け自宅待機を命じられ,さらに給与を減額されて解雇を通告されたとして,解雇無効による地位確認と月例給与,賞与の支払い,減額前賃金との差額を請求するとともに,一連の行為が不法行為に当たるとして慰謝料300万円などを請求した事案です。
本判決は,Xによる経費の不正請求を主たる理由とする本件解雇は解雇権の濫用に当たるとした上で,地位確認と,本判決確定までの減額前の賃金(年2回の賞与を含む)支払,差額賃金支払請求を認容しました。しかし,Xへの退職勧奨は,人件費削減が必要との経営判断に基づくことや交渉の経緯等からみて不当とはいえず,給与減額についてもXは差額賃金等の支給によってその不利益は救済されるのであるから,不法行為を構成するほど悪質な対応がY社にあったとはいえないとして,慰謝料請求については退けています。

懲戒処分の聴取で元警官の役員が恫喝したとして慰謝料12万円が認められた例

京都地判平成30.10.14

元警察官の役員から恫喝を伴う事情聴取を受けるなどして不当な懲戒解雇処分を受けたとして,自動車販売会社元社員の男性(32)が社員としての地位確認などを求めた訴訟の判決があり,藤田昌宏裁判官は「解雇処分は重すぎる」として,解雇の無効と未払い賃金や慰謝料12万円の支払いを命じた。判決によると,男性は2007年に入社し,自動車整備業務に従事していた。男性は,後輩の男性社員との間での自動車売買を巡るトラブルなどで懲戒処分を受けたことに関連し,後輩社員に謝罪がなかったなどとして,14年11月に懲戒解雇処分を受けた。藤田裁判官は,処分の対象となった行為は,就業規則に定められた懲戒事由の一部だとした上で「解雇は最も重い処分で,再就職の障害にもなるため,慎重に判断すべき」として懲戒解雇処分は無効とした。会社側が処分を決める際に元府警の役員が行った事情聴取について「元警察官であることをことさら述べながら,強い言葉で行ったことが認められ,会社は使用者責任を免れない」と原告の精神的苦痛を認めた。