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情報漏洩

事例

私は,社内における,私に対するいじめ・差別的な処遇について弁護士に相談するため,社内の人事情報に関するやり取りの記載された書類などを弁護士に手渡しました。そのため,私は,会社の許可なく機密書類を第三者に対して開示したことを理由として,懲戒解雇を言い渡されました。
このような場合でも,懲戒解雇は認められるのでしょうか。

不当解雇

回答

判例は,弁護士に相談するために企業情報を許可なく開示することは,弁護士が弁護士法23条による守秘義務を負うことや,権利救済のための必要性から,(違法性が阻却され)秘密保持義務違反とはならないと解しています。従って,あなたの場合も,懲戒解雇権の濫用として,解雇は無効とされる可能性が高いといえるでしょう。

 

解説

1 秘密保持義務

労働契約は,労働力を使用者の処分に委ねることを内容とし,人的・継続的な関係を基本とする契約ですので,労働者と使用者間の信頼関係が重要視されます。つまり,労働者は,労働契約を締結することにより,労働契約上の付随義務として誠実義務を負っており,その1つとして使用者の秘密を保持する義務があります。そして,多くの会社の就業規則において,労働者に対し秘密保持義務が課され,あるいは名誉・信用の失墜行為が禁止されており,これらの違反は懲戒処分や解雇の理由となり得ます。
就業規則に秘密保持義務が規定され,労働契約の内容となる場合には,使用者は,労働者による秘密保持義務違反に対して,懲戒処分や損害賠償請求などを行うことが可能となります。但し,秘密保偽義務は,第三者への企業情報の開示を禁止するものであり,情報を企業外へ持ち出したこと(例えば,自宅へ持ち帰ったこと)だけで直ちに秘密保持義務違反となるわけではありません。

2 秘密とは

また,保持されるべき「秘密」とは,非公知性のある情報であって,これが企業外に漏れることで企業の正当な利益(顧客からの信用を含む)を害するものであると解されています。個人情報保護法によって,使用者が(顧客等の)第三者に対して保護義務を負う個人情報については,当然,労働者も秘密保偽義務を負います。

3 秘密保持義務違反とならない場合

弁護士に相談するために企業情報を許可なく開示することは,弁護士が弁護士法23条による守秘義務を負うことや,権利救済のための必要性から,(違法性が阻却され)秘密保持義務違反とはならないと解しています。
その他,内部告発等についても,正当性のあるものについては義務違反とならないと解されています。

 

 

判決事例

情報漏洩を理由とする懲戒解雇等が無効と判断された事例

メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ事件

東京地判平成15.9.17労働判例858-57
(事案の概要)
Yは,機関投資家に対する資産運用及び投資信託の設定・運用などを主たる業務とし,米国を本拠地とする金融グループである「メリルリンチ・グループ」に属するメリルリンチ投信投資顧間株式会社(以下「旧メリルリンチ」という。)が,平成10年7月1日,マーキュリー投資顧問株式会社及びマーキュリー投信株式会社の2社(以下,両社を併せて「旧マーキュリー」という。)を吸収合併してメリルリンチ・マーキュリー投信投資顧問株式会社の商号で発足した株式会社であるところ,Xは,平成5年10月に旧メリルリンチの従業員として採用された。
しかし,Xは,Yの機密書類をYの承認なしに第三者に対して開示したこと等を理由として,平成12年10月24日,Yより懲戒解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は,Xが,Yにおいて,Xに対するいじめ・差別的な処遇があるとして,その担当弁護士に,人事情報や顧客情報などを手渡したこと等を認定した上,「本件各書類は,原告(筆者注:X)が自己の救済のために必要な書類であると考えた書類であって,その交付先が秘密保持義務を有する弁護士であること,原告は,F弁護士から原告の同意なしに第三者に開示しないとの確約書を得ていること,自己に対する職場差別について,被告(筆者注:Y)社内の救済手続を利用したのに,それに対して何らの救済措置が執られるような状況にはないばかりか,被告代表者から秘密保持義務違反を問われ,また退職を勧奨されていたという当時の原告が置かれていた立場からすれば,自己の身を守るため,防御に必要な資料を手元に保管しておきたいと考えるのも無理からぬことであることからすれば,本件就業規則が原告に対し効力を有するとして,原告が本件各書類を被告に返還しなかったことは,本件就業規則の守秘義務規定に違反するとしても,その違反の程度は軽微というべきである。」,「被告が本件各書類をF弁護士に開示,交付した目的,態様,本件各書類の返還に応じなかった当時の事情からすれば,本件懲戒解雇は,懲戒解雇事由を欠くか,または軽微な懲戒解雇事由に基づいてされたものであるから,懲戒解雇権の濫用として無効であり,これを普通解雇とみても,同様に解雇権の濫用として無効であるというべきである。」と判示した。
(コメント)
本判決では,顧客リスト,社内の人事情報に関するやり取りの記載された書類などが,外部に開示されることが予定されていない企業機密であると認定されています。そのうえで,さらに,就業規則に守秘義務規定のある本件において,労働契約上の義務として,業務上知り得た企業の機密をみだりに開示しない義務を負担していると解するのが相当であるとしています。特に,本件では,入社時においてYの企業秘密を漏洩しない旨の誓約書を差し入れ,また,秘密保持をうたった「職務遂行ガイドライン」を遵守することを約しているのであるから,Xが秘密保持義務を負うことは明らかであるとし,Xが投資顧問部の公的資金顧客,企業年金の既存顧客担当の責任者として,その企業秘密に関する情報管理を厳格にすべき職責にあった者であると認定しました。
しかし,判決は,自らの受けた嫌がらせに対する救済のためYの社内手続を利用することとし,Xの主張をまとめた面談書類および,その裏づけ資料である本件書類を担当弁護士に交付したものと認定しています。つまり,Xの権利救済のために必要な書類を担当弁護士に交付したということです。また,判決は,弁護士は弁護士法上守秘義務を負っていることから(弁護士法23条),自己の相談について必要と考える情報については,企業の許可がなくてもこれを弁護士に開示することは許される,と解されるとしました。
これらの理由から,Xの解雇が懲戒解雇権の濫用として無効であり,普通解雇としても解雇権の濫用として無効であると判断したのです。

日産センチュリー証券事件

東京地判平成19.3.9労働判例938-14
(事案の概要)
Yは,有価証券の自己売買,顧客からの売買注文の受託業務,有価証券の引受,売出業務,有価証券の募集,取扱業務など証券業務全般及びその他の附帯業務を行う証券会社であるところ,Xは,昭和60年4月にYに入社し,以後専ら本店で営業社員として稼働してきた。
しかし,Yは,平成17年12月5日,Xに対し,Xが上司の許可なくY所有のコピー機で営業日誌の写しを取り,これを自宅に持ち帰り,他支店への異動後も引き続き保管を続けたことが就業規則87条1号(個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)16条1項,23条1項,金融分野における個人情報保護に関するガイドライン5条1項,13条1項,個人情報の保護に関する指針(日本証券業協会理事会決議)6条1項,14条1項,就業規則36条,41条2項,47条,従業員服務規程3条,6条,23条1項16号),3号及び4号に違反するとして,退職願の提出期限を平成17年12月8日正午までとして諭旨退職処分(就業規則85条8号により「退職願を提出させて解雇する。但し,提出しないときは懲戒解雇する。」とされているもの)とする旨を通知したが,Xが提出期限までに退職願を提出しなかったため,同月12日,Xに対し,懲戒解雇とする旨を通知した(以下,「本件解雇」という。)。
(裁判所の判断)
裁判所は,「(営業日誌の)個々の顧客を特定しうる可能性のある記載は,訪問場所と顧客名の記載であるが,これだけで特定しうるとはいえないものの,特定を容易ならしめる記載であることは間違いなく,少なくともこれを社外に持ち出すことは全く予定されていない情報ということができるから,被告(筆者注:Y)が就業規則で「洩らし」又は「洩らそうと」することを禁止している「取引先の機密」(87条3号,36条),従業員服務規程で「洩らし」又は「漏洩」することを禁止している「職務上知り得た秘密」(6条,23条1項16号)には当たると認めるのが相当である。」としながら,「被告は,物理的に被告の管理する施設外に持ち出しており,それだけで「洩らし」又は「洩らそうとし」たといえると主張するが,「洩らし」又は「洩らそうとし」たといえるためには,第三者に対して開示する意思で,第三者に対して開示したのと同等の危険にさらすか又はさらそうとしなければならないと解されるところ,原告(筆者注:X)本人尋問の結果によれば,原告は,本店営業部第3課に異動したことにより担当する顧客数が大幅に増えたため,帰宅後,自宅で訪問計画を立てるために利用する目的で,営業日誌の写しを取ったことが認められ,原告には,第三者に対して開示する意思があったものとは認め難いばかりか,写しを取って自宅に持ち帰ることにより,外部に流出する危険が増したとはいえ,第三者に開示したと同等の危険にさらしたとまでは認められないから,未だ「洩らし」たとまでは認めることはできないといわざるを得ない。」,「弁護士にファックス送信した行為であるが,これは,証拠,原告本人尋問の結果によれば,B証言を弾劾するため,内示当日の営業日誌を弁護士に示すためにファックス送信したものであることが認められ,都労委において本件配転の効力を争っている原告にとってその目的が一応正当性を有していること,弁護士は弁護士法上守秘義務を負っており(23条),弁護士を介して外部に流出する可能性は極めて低いことを考慮すると,これをもって漏えいに当たるとすることはできないというべきである。」,「次に,これを都労委の審問期日に提出した行為であるが,本件写しの証拠提出が撤回されたことは上記のとおり争いがなく,証拠によれば,その行為態様は,原告の代理人弁護士が本件写しを甲34号証として提出しようとして,これを都労委の担当者に手渡し,収受印が押されたが,その副本を受領した被告の代理人弁護士から指摘されて結局これを撤回したため,証拠としては提出されない扱いとなり,甲34号証は欠番とされ,原告代理人が回収した同号証は被告代理人に交付されたことが認められる。このように,都労委に対しては最終的に証拠提出されなかったのであるから,漏えい行為自体が存在しないというほかない。なお,被告は,本件写しが提出された審問期日には多くの傍聴人が存在し,本件写しの内容は,特定の第三者ではなく,不特定多数の者に対して知れ渡る可能性があったから,都労委の審問期日において顕出されていると主張する。確かに,手続としては提出されない扱いだったとしても,本件写しが都労委の担当者に手渡されてから回収されるまでの間に,事実上都労委委員,被告の担当者及び傍聴人の目に触れた可能性は否定できない。しかし,まず,都労委委員は労働組合法上守秘義務を負っており(23条),同委員が事実上本件写しの内容を見たとしても,それが外部に流出する危険はないといえるし,傍聴席あるいは当事者席にいた被告の担当者は,本件写しの記載内容の本来の保管者である被告の担当者であるから,そのいずれに対しても漏えいということは考えられない。そして,それ以外の者,すなわち原告を支援する目的で傍聴に来ていた者については,守秘義務は存在せず,これらの者に本件写しの内容が知れたとすれば,それは漏えいに当たると評価せざるを得ない。そして,上記認定事実を総合すれば,少なくとも紙としての本件写しが,原告ないし原告代理人から都労委委員及び被告代理人に手渡され,都労委委員に渡された分が最終的に被告によって回収されたことは傍聴人にも見えていた可能性が高いといわざるを得ない。しかし,その記載内容までが傍聴人の目に触れるような形でやり取りが行われたとまではこれを認めるに足りる証拠はないから,そのような傍聴人に対する漏えい行為があったということもできない。」と判示して,懲戒解雇を無効と判断した。

宮崎信用金庫事件

福岡高裁宮崎支判平成14.7.2労働判例833-48
(事案の概要)
Yは信用金庫であり,Xらは,それぞれYの支店貸付係担当係長,本店営業部得意先係として勤務していた。
しかし,Xらは,Yの管理している顧客の信用情報等が記載された文書を不法に入手し,これら文書やYの人事等を批判する文書を外部の者に交付して機密を漏洩し,かつ,Yの信用を失墜させたとして,平成10年4月10日,Yより懲戒解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は,Xらが,Yにおける不正融資疑惑を解明するため,Yのホストコンピュータに不正アクセスし,顧客の信用情報をプリントアウトし,また,信用情報を記載した稟議書の原本からコピーをとり,これらの文書等を外部の議員秘書に交付して機密を漏えいし,Yの信用を失墜させたとして懲戒解雇されたことを認定した。
その上で,「控訴人(筆者注:Xら)が取得した文書等は,その財産的価値はさしたるものではなく,その記載内容を外部に漏らさない限りは被控訴人(筆者注:Y)に実害を与えるものではないから,これら文書を取得する行為そのものは直ちに窃盗罪として処罰される程度に悪質なものとは解されず,控訴人らの上記各行為は,就業規則には該当しないというべきである。」,「控訴人らはもっぱら被控訴人内部の不正疑惑を解明する目的で行動していたもので,実際に疑惑解明につながったケースもあり,内部の不正を糺すという観点からはむしろ被控訴人の利益に合致するところもあったというべきところ,上記の懲戒解雇事由への該当が問題となる控訴人らの各行為もその一環としてされたものと認められるから,このことによって直ちに控訴人らの行為が懲戒解雇事由に該当しなくなるとまでいえるかどうかはともかく,各行為の違法性が大きく減殺されることは明らかである。」,「控訴人らの行為が被控訴人主張の各懲戒解雇事由に当たると仮定してみても,控訴人らを懲戒解雇することは相当性を欠くもので権利の濫用に当たる」等と判示して,懲戒解雇を無効と判断した。
(コメント)
なお,同事件の一審判決(宮崎地判平成12.9.25労判833-55)は,Xらの入手した文書は,Yの所有物であるから,これを業務外の目的に使用するために,Yの許可なく業務外で取得する行為は就業規則の懲戒解雇事由「窃盗」に当たり,XらがY内部の不正を糾したいとの正当な動機を有していたとしても,その実現には社会通念上許容される限度内での適切な手段方法によるべきであるから,Xらの行為を正当行為として評価することはできないなどとして,本件懲戒解雇の相当性を肯定しています。

情報漏洩を理由とする懲戒解雇等が有効と判断された事例

古河鉱業事件

東京高判昭和55.2.18労働関係民事裁判例集31-1-49
(事案の概要)
Yは,石炭と非鉄金属(主として銅)との採掘販売業・鉱山土木機械製造販売業を営む会社であるところ,Xらは,それぞれ,昭和27年3月3日,同29年4月1日,Yに工員として期間の定めなく採用された。
しかし,Xらは,Yの機密を故意に漏らしたこと等を理由に,昭和37年7月20日,Yより懲戒解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は,「(Ⅰ)守秘義務の法的根拠と人的範囲 労働者は労働契約にもとづく附随的義務として,信義則上,使用者の利益をことさらに害するような行為を避けるべき責務を負うが,その一つとして使用者の業務上の秘密を洩らさないとの義務を負うものと解せられる。信義則の支配,従ってこの義務は労働者すべてに共通である。もとより使用者の業務上の秘密といっても,その秘密にかかわり合う程度は労働者各人の職務内容により異るが,管理職でないからといってこの義務を免れることはなく,又自己の担当する職務外の事項であっても,これを秘密と知りながら洩らすことも許されない。このことは,工員をもつて組織する組合の加入する足製連が会社と結んだ労協,及び工員のみを対象とする就規が,従業員に右のような義務があることを前提として,それぞれ会社の業務上重要な秘密を洩らした者を懲戒解雇する旨定めていることからも,明らかである。
(Ⅱ) 秘密の漏洩先 労協57条3号は秘密を洩らし,又は洩らそうとした先を「他」と,就規73条6号は「社外」と規定する。前者は後者の上位規範とはいえ,いずれも制定手続上労働組合の関与を要し,さらに文言上も実質上もあえて漏洩先に差を設ける必要性に乏しいから,統一的に「会社以外」と解し,社内に洩らしたときは労協57条16号,就規73条14号によって措置すれば足りると考えるのが相当である。これを本件についてみると,Xらの本件謄写作成配布,細胞員との本件計画検討及び反対態勢づくりは,すべて日本共産党員としての立場を堅持しつつ,党活動として行われたものである上,党は会社とは全く別異の政治団体であるから,Xらの右行為は本件計画を社外に洩らしたことにあたる。Xらは,「細胞の構成員が会社従業員のみによって占められているから,細胞内で秘密漏洩行為をしたとしても,『社外』にあたらない。」と主張する。しかし党が社外にあたる以上,細胞構成員が会社従業員で占められていても,細胞は社外に該当する。いわんやXらは本件計画の検討に当り,西毛地区委の幹部であって会社従業員でない者の出席指導をも得ており,同人にも洩らしたことが認められるから,Xらの右主張は採用できない。
(Ⅲ) 秘密漏洩行為の反社会性について 懲戒は企業秩序をみだす行為に対する制裁であり,労協57条3号,就規73条6号は,会社の業務上重要な秘密が守られることを企業秩序維持の一つの柱と考え,これを他に洩らした者に懲戒解雇をもつて臨むことを定めたものである。懲戒制度の目的からみれば,この構成要件は必要かつ十分であって,このほかに,労協等に明文がないにもかかわらず,敢てXら主張のような情報取得の反社会性,暴露行為の目的及び結果の反社会性,さらに企業秩序の侵害のような要件を必要とするものとは解せられない。所論は,たとえば公共性を有する報道機関による取材,報道等との関連において,秘密漏洩行為に刑事罰を科するかどうかの問題につき,或は検討を要する事項ではあり得ても,企業秩序という私的利益を守るために科せられる懲戒処分につき,労協・就規・労働契約上明示の規定なくして,当然に妥当するものではない。
(Ⅳ) 秘密漏洩行為の組合活動・政治活動としての正当性について Xらの本件計画漏洩行為が,日本共産党員としての立場にもとづき,本件計画反対のための組合の態勢づくりの目的に出たことは前記認定のとおりである。その限りではXらは党の立場に立って組合の利益と組合内における党の地位向上をはかったといえるが,これを組合活動ということはできない。すなわち,Xらの本件計画漏洩行為は前示のように組合にも秘匿されたので,これが組合の承認にもとづくとはいえず,また組合がかような行為を組合活動として承認し,その責を負うべき筋合とは考えられないからである。のみならず,組合の加入する足製連は,労協57条3号においてかような行為をする組合員に対し会社が懲戒を行うことを承認しており,この条項は組合にも効力を及ぼすので,特段の事情のない本件ではXらの右行為は組合活動としても到底正当性を取得しない。Xらは組合に加入し,かつ会社と労働契約を結び,その結果労協57条3号,就規73条6号の適用を受け,会社に対する関係で,会社の業務上重要な秘密を洩らさないという制限を受けるに至ったものである。かような制限は,Xらが会社と右のような労働契約関係にあるかぎり,政治活動が憲法21条により国家に対する関係で保障されていることを考慮しても,その効力に疑をさしはさむ余地はない。従ってXらの本件計画漏洩行為が政治活動にもあたるとしても,これが労協・就規の前記条項に該当する以上,Xらは懲戒責任を免れることはない。」と判示して,懲戒解雇を有効と判断した。

三朝電機事件

東京地判昭和43.7.16判例タイムズ226-127
(事案の概要)
Xは,昭和36年9月30日,電機計測器の組立配線調整修理業を営むYに雇用され,主として測定機器の製作等に従事していた。
しかし,Yは,昭和39年6月20日,Xに対し,秘密漏洩等を理由として,労働基準法20条所定の予告手当を提供して解雇の意思表示をした。
(裁判所の判断)
裁判所は,「債権者(筆者注:X)が債務者(筆者注:Y)から営業上の秘密として指定されたEMO61なる機種の製作に要する工数を漏らしたことは,信義則上労働者に要請される秘密保持の義務に違反し,しかも債務者はこのため安値受注を余儀なくされたのであるから,その情状はきわめて重大である。・・・債務者は解雇の意思表示当時右非行をまだ覚知していなかつたことが疏明されるけれども,労働者の非行が解雇の意思表示以前に行なわれた以上,仮令右意思表示当時使用者がいまだこれを覚知していなくても後日これを解雇事由として主張することは妨げない。ただ右意思表示の動機として労働者の組合活動とその非行とが並存する場合いずれが決定的であったかを判定するに当り,あるいはまた解雇の意思表示が権利の濫用に該当するか否かに関し,その意思表示の動機如何を判定するに当り,右意思表示当時使用者に判明していなかつた非行を除外すべきであるとの制約を蒙るにすぎない。しかるに本件において右意思表示の動機として不当労働行為意思が認められないことは前示のとおりであり,またその動機に関し秘密を洩らした非行を除外して考えても格別権利の濫用にわたると認められる点はないから,右非行を解雇事由の一として考慮するにつき右の制約は存しない。」と判示して,解雇を有効と判断した。

  
コニカ(東京事業所日野)事件

東京高判平成14.5.9労働判例834-72
(事案の概要)
Yは,カラーネガフイルムをはじめとする各種感光材料,感材機器,情報機器,カメラ等光学用品の製造販売を主な業務とする株式会社であり,Xは,平成2年12月16日,Yとの間で,期間の定めのない労働契約を締結した。
しかし,Xは,事業上の重要な情報・機密を漏えいしたこと等を理由に,平成11年8月13日,Yより懲戒解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は,Xが,雑誌への取材に応じて,虚偽の発言をして虚偽の記事を掲載させたこと等を認定した上で,「どのような内容の記事を掲載するかは,当該雑誌社の編集方針等に委ねられているところであり,当該雑誌社の責任において行うのであって,控訴人(筆者注:X)がこれに影響を与える立場にないことは明らかであるから,控訴人が雑誌の取材に応じたことをもって,就業規則にいう「社外に対し,・・宣伝流布を行った」ということはできない。」,「控訴人は,前記認定のとおり多数の懲戒事由に該当する行為を重ねていたものであり,これらを総合すれば,本件懲戒解雇は,客観的にみて相当な判断と認められるのであり,本件において認められる事実関係に照らして,本件懲戒解雇が,控訴人において被控訴人(筆者注:Y)による違法な時間外労働規制を指摘,問題としたことを発端として行われたものと認めることはできない。」と判示して,懲戒解雇を有効と判断した。
(コメント)
なお,同事件の一審では,Xが雑誌の取材に応じて自らの労働問題について発言したことを除くすべての事項について,懲戒解雇事由該当性を肯定しており,本判決も,原審の判断を相当と認め,その理由については,原審の判断をもっぱら引用するにとどまっています。