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金品の着服,横領,窃盗等

事例

私は会社の営業を担当しています。先日,会社内で保管していた金銭が無くなったとのことで会社は所轄の警察署へ被害届を出しました。その後,金銭が無くなったとする日に残業をしていた私に疑いがかけられ,犯人扱いをされました。私は金銭を盗んだ覚えはなく,その旨会社に弁解をしましたが,ついには懲戒解雇を受けました。会社は私が残業していたという状況証拠のみを根拠にして,客観的な証拠を何らしめしませんでした。このような場合,懲戒解雇は有効なのですか?

不当解雇

回答

金銭の着服等事案においては,懲戒解雇処分の重大な影響力に鑑み、刑事処分に準ずる程度の慎重な手続きと事実確認を要します。従って,この種事案で懲戒解雇が有効になるためには,現に着服(窃盗)行為や不法領得の意思の存在が証拠上明らかであるか又は相当程度の蓋然性が認められることを要し,さらに,従業員に十分な弁解の機会を与え,客観的証拠に基づき慎重に確認作業を行ってから解雇処分を決せなければなりません。ご相談の場合,そのような慎重なプロセスを経ずして懲戒解雇を強行していますので,無効となる可能性が高いと言えます。

 

解説

1 金銭着服事案等の裁判例

金品の着服・横領などについての裁判例を見ると,タクシーやバスの運転手による料金の着服については,金額の多寡を問わずに,懲戒解雇が有効とされる傾向にあります(西鉄雜餉自動車営業所事件 昭和60年4月30日福岡地方裁判所判決等)。また,信用金庫の業務推進部に所属する調査役が顧客から集金した金員の一部(1万円)を着服した事案について懲戒解雇は有効とされました(前橋信用金庫事件平成元年3月16日東京高等裁判所)。これは,現に着服行為が存したか,不法領得の意思が明らかである場合に,当該従業員が金銭の取り扱いを業務内容としており,その業務を誠実に遂行することが会社の経営の基礎となっているため,金銭着服等に対しては極めて厳しい態度をとり解雇を有効としているものと解されます。

2 金銭着服等事案について,懲戒解雇が無効となった裁判例

⑴ 平成15年6月9日東京地方裁判所八王子支部判決(労働判例861号56頁)

電鉄会社バス事業営業所の事故担当者助役に対する現金の着服・横領を理由とする懲戒解雇につき,着服・横領を認めるに足りる合理的立証はないから,具体的な懲戒解雇事由なくしてなされたもので無効とされました。
特に,労働者である助役が,使途不明金を発生させ,これらについて説明や資料の提出が不十分であったとしても,直ちに不法に領得したものとは決めつけることは出来ない,と判示した点に留意すべきです。

⑵ 平成9年4月9日福岡高等裁判所判決(労働判例716号55頁)

ワンマンバス乗務員による運賃の手取行為が、横領の意図を伴わない単なる手続違反にすぎないとして、右行為を理由とする懲戒解雇を権利の濫用として無効と解する原判決が相当とされました。 特に,「同乗務員の各運賃手取行為は、いずれも会社の定めた運賃収受手順に違反するものであり、同乗務員に横領の意図があったのではないかとの疑いはあるものの、その都度同乗務員からの事情聴取を含む調査がなされていないため、手取りした金員が最終的に運賃箱に投入されなかったのかどうか等の詳細な事実関係が明らかでなく、同乗務員に横領の意図があったものと断定することは躊躇される。したがって、同乗務員が本件手取行為前に右のような手取行為に及んだ事実を考慮に入れた場合、本件手取行為が横領の意図でなされたのではないかとの疑念は残るものの、なお、横領意図の存在の証明は不十分であるといわざるを得ない」と判示した点に留意すべきです。

⑶ 平成6年7月12日大阪地方裁判所決定(労働判例669号70頁)

葬祭の進行業務を行う従業員に対してなされた御布施の着服、施主から直接現金を預かってはならないとの内規違反を理由とする懲戒解雇につき、解雇事由が証拠上明らかでないとしてその効力を否定した事件です。
まず,「解雇処分は従業員及びその家族の生活に対し重大な影響を及ぼすものであるから、右のような不正行為の存在を理由とする場合であっても、その目的が異なるのであるから刑事処分と同等とまではいわないまでも、その結果の重大性に鑑みるときは、それに準ずる程度の慎重な手続きと事実確認を要すると言うべきであろう。」と判示しました。そして,解雇理由となる不正行為の存在が、単なる疑い程度ではその理由とするには不十分であり、その存在が証拠上明らかであるか又は相当程度の蓋然性が認められることを要すると解すると判示しました。その上で, 本件解雇事由はいずれも顧客の記憶のみに基づくものであるが、顧客の記憶には「混乱が生じて」おり、「債権者が不正行為を行ったことは証拠上明らかと言えないのはもちろん、その存在につき相当程度の蓋然性を有するとまでも言えない」としました。さらに,従業員の疑惑が生じるや、直ちに従業員に事情聴取をし、従業員が右疑惑を否定しているにもかかわらず,供述の裏付けや他の物的資料による確認作業を行おうともしないまま、遂には懲戒解雇したという会社の態度は、事実調査としても十分なものといえないうえ、従業員に十分な弁解の機会すら与えない性急なものであり、一層相当性を欠く」と判示し,懲戒解雇の効力を否認しました。

3 小括

これら裁判例からすれば,金銭の着服等事案においては,懲戒解雇処分の重大な影響力に鑑み、刑事処分に準ずる程度の慎重な手続きと事実確認を要します。従って,この種事案で懲戒解雇が有効になるためには,現に着服(窃盗)行為や不法領得の意思の存在が証拠上明らかであるか又は相当程度の蓋然性が認められることを要し,さらに,従業員に十分な弁解の機会を与え,客観的証拠に基づき慎重に確認作業を行ってから解雇処分を決せなければならないといえます。このような慎重な手続を欠く場合は,懲戒解雇は無効となる可能性が高いと言えます。

 

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