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職務懈怠

事例

私は,先日,会社の上司から呼び出されて,職務懈怠を理由に,解雇すると告げられました。詳しく聞くと,私が,会社から貸与されたパソコンを利用して就業時間中に私用メールを送受信していたことが職務懈怠に該当し,解雇事由に当たるというのです。私は,月に2~3通程度しか私用でメールを利用していませんでしたが,このような場合でも,解雇は認められるのでしょうか。

不当解雇

回答

解雇の可否については,就業時間中の電子メールの使用回数,使用期間や,私的利用に対する注意・指導の有無などを総合して判断する必要があります。判例上,解雇が有効とされているケースは,電子メール・インターネットの私的利用が,社会通念上大きく逸脱しているケースです。したがって,あなたの場合のように,使用頻度はけっして多くなく,たまたま私的利用が発覚しただけで,懲戒解雇を行うことは,解雇権の濫用として無効とされる可能性が高いといえます。

 

解説

労働者は,雇用契約に基づき使用者の指示に従って労務を提供すべき義務を負っています。従って,欠勤はもとより,就業規則等で定められた始業時間から終業時間までの一部について労務を提供しないことになる遅刻・早退・私用外出は,雇用契約上の義務違反(債務不履行)であり,普通解雇事由となり,さらに職場秩序の面から,正当な理由のない勤怠不良は懲戒解雇事由ともなり得ます(そもそも,労働者には欠勤の権利や遅刻・早退・私用外出の権利はありません。)。但し,かかる勤怠不良を理由とする解雇が有効と認められるためには,客観的に合理的な理由と社会通念上相当と認められる事が必要です(労働契約法16条)が,この判断はケースバイケースでなされます。
具体的には,勤怠不良等の回数・程度・期間・態様(やむを得ない理由の有無等),職務に及ぼした影響,使用者からの注意・指導と当該従業員の改善の見込ないし改悛の度合い,当該従業員の過去の非行歴や勤務成績,過去の先例の存否等を判断要素として解雇の有効性が判断されます。
従業員が,欠勤・遅刻・私用外出を頻繁に繰り返し,合理的な理由を述べないばかりか,反省の態度がなく,上司が是正するように注意しても,これを改めないような場合は,当該従業員を解雇しうるといえます。
ただし,かかる場合であっても一般的には普通解雇が限度であり,懲戒解雇を実施するのは重きに失するといえ,無効となる可能性があると言えます。

 

 

判決事例

職務懈怠を理由とする懲戒解雇(解雇)が無効と判断された事例

高知放送事件

最判昭和52.1.31労働判例268-17
(事案の概要)
Xは,Yの編成局報道部勤務のアナウンサーであったが,

  • ⑴昭和42年2月22日午後6時から翌23日午前10時までの間,ファックス担当者とともに宿直勤務に従事したが,23日午前6時20分頃まで仮眠していたため,同日午前6時から10分間放送されるべき定時ラジオニュースを全く放送することができなかった(以下,「第一事故」という。)、
  • ⑵また,同年3月7日から翌8日にかけて,ファックス担当者とともに宿直勤務に従事したが,寝過したため,8日午前6時からの定時ラジオニュースを約5分間放送することができなかった(以下,「第二事故」という。)、
  • ⑶右第二事故については,上司に事故報告をせず,同月14,5日頃これを知ったA部長から事故報告書の提出を求められ,事実と異なる事故報告書を提出した。

そこで,Yは,Xの右行為は就業規則所定の懲戒事由に該当するので懲戒解雇とすべきところ,再就職など将来を考慮して,普通解雇に処した。
(裁判所の判断)
裁判所は,「普通解雇事由がある場合においても,使用者は常に解雇しうるものではなく,当該具体的な事情のもとにおいて,解雇に処することが著しく不合理であり,社会通念上相当なものとして是認することができないときには,当該解雇の意思表示は,解雇権の濫用として無効になるものというべきである。本件においては,被上告人(筆者注:X)の起こした第一,第二事故は,定時放送を使命とする上告会社(筆者注:Y)の対外的信用を著しく失墜するものであり,また,被上告人が寝過しという同一態様に基づき特に2週間内に2度も同様の事故を起こしたことは,アナウンサーとしての責任感に欠け,更に,第二事故直後においては卒直に自己の非を認めなかった等の点を考慮すると,被上告人に非がなしということはできないが,他面,原審が確定した事実によれば,本件事故は,いずれも被上告人の寝過しという過失行為によって発生したものであって,悪意ないし故意によるものではなく,また,通常は,ファックス担当者が先に起きアナウンサーを起こすことになっていたところ,本件第一,第二事故ともファックス担当者においても寝過し,定時に被上告人を起こしてニュース原稿を手交しなかったのであり,事故発生につき被上告人のみを責めるのは酷であること,被上告人は,第一事故については直ちに謝罪し,第二事故については起床後一刻も早くスタジオ入りすべく努力したこと,第一,第二事故とも寝過しによる放送の空白時間はさほど長時間とはいえないこと,上告会社において早朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかったこと,事実と異なる事故報告書を提出した点についても,一階通路ドアの開閉状況に被上告人の誤解があり,また短期間内に2度の放送事故を起こし気後れしていたことを考えると,右の点を強く責めることはできないこと,被上告人はこれまで放送事故歴がなく,平素の勤務成績も別段悪くないこと,第二事故のファックス担当者はけん責処分に処せられたに過ぎないこと,上告会社においては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかったこと,第二事故についても結局は自己の非を認めて謝罪の意を表明していること,等の事実があるというのであって,右のような事情のもとにおいて,被上告人に対し解雇をもってのぞむことは,いささか苛酷にすぎ,合理性を欠くうらみなしとせず,必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある。」と判示して,解雇を無効と判断した。
(コメント)
本件については,仮処分請求に関し,すでに最高裁まで争われ,いずれも解雇無効の判断が示されており(高知地判昭和43.12.8,高松高判昭和43.7.16,最一小判昭和46.3.4労経速743),本訴請求である本件に関しても,一審(高知地判昭和48.3.27),二審(高松高判昭和48.12.19労判192)ともに同様の判断を下しています。なお,本判決は,懲戒解雇事由に該当するが諸般の事情を考慮して普通解雇が行なわれた場合に,このような転換を許容し,その場合,懲戒解雇事由該当性は問わずに,普通解雇の要件を備えていれば足りるとしています。

グレイワールドワイド事件

東京地判平成15.9.22労判870-83
(事案の概要)
Yは,広告企画,ブランド構築等を主たる業務とする株式会社であるところ,Xは,昭和54年2月,Yに採用され,本件当時,主に秘書業務,英文による情報提供業務,翻訳業務等に従事していた。
しかし,Xは,機密漏洩をしたことを理由に,平成13年9月30日,Yより解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は,「労働者は,労働契約上の義務として就業時間中は職務に専念すべき義務を負っているが,労働者といえども個人として社会生活を送っている以上,就業時間中に外部と連絡をとることが一切許されないわけではなく,就業規則等に特段の定めがない限り,職務遂行の支障とならず,使用者に過度の経済的負担をかけないなど社会通念上相当と認められる限度で使用者のパソコン等を利用して私用メールを送受信しても上記職務専念義務に違反するものではないと考えられる。本件について見ると,被告(筆者注:Y)においては就業時間中の私用メールが明確には禁じられていなかった上,就業時間中に原告(筆者注:X)が送受信したメールは1日あたり2通程度であり,それによって原告が職務遂行に支障を来したとか被告に過度の経済的負担をかけたとは認められず,社会通念上相当な範囲内にとどまるというべきであるから,私用メールの送受信行為自体をとらえて原告が職務専念義務に違反したということはできない。以上を前提に本件解雇が解雇権の濫用にあたるか否かを検討するに,被告の主張する解雇事由のうち,就業規則上の解雇事由に該当するといえるのは,私用メールによる上司への誹謗中傷行為及び他の従業員の転職あっせん行為のみであり,後者については前記のとおり背信性の程度が低いこと,原告が,本件解雇時まで約22年間にわたり被告のもとで勤務し,その間,特段の非違行為もなく,むしろ良好な勤務実績を挙げて被告に貢献してきたことを併せ考慮すると,本件解雇が客観的合理性及び社会的相当性を備えているとは評価し難い。」と判示して,解雇は解雇権の濫用にあたり無効と判断した。

北沢産業事件

東京地判平成19.9.18労判947-23
(事案の概要)
Yは,厨房器具の製造並びに販売及び厨房設備の工事請負等を業とする株式会社であるところ,Xは,昭和63年4月1日,Yに期間の定めのない従業員として入社した。
しかし,Xは,勤務時間中に,他の社員の誹謗中傷や,業務と関係のないメールの送受信を繰り返し,社外の知人との間においても多数の私用メールの送受信を行ったことなどを理由に,平成18年7月31日,Yより即時解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は,平成16年4月5日から同17年4月21日までの約13か月の間,Xが送信した私用メールは,証拠上32通であり,その頻度は,1か月に2通から3通というものにすぎないこと,また,その内容も,中には,取引先の関係者からの世間話に応じたもの,母校の後輩からの就職相談に答えたもの,社員との懇親会の打ち合わせといったやむを得ないものや,その必要性をあながち否定しがたいものも含まれているし,証拠上,その作成に長時間を要し,業務に具体的支障を生じさせたと解されるメールも存在しないことなどを認定した上,「Xがした私用メールが社会通念上許容される範囲を超えるものであったとは認めがたく,これを就業規則違反に問うことはできないというほかない。」と判示して,解雇を無効と判断した。

職務懈怠を理由とする懲戒解雇が有効と判断された事例

K工業技術専門学校(私用メール)事件

福岡高判平成17.9.14労判903-68
(事案の概要)
Yは,私立の学校法人であり,Xは,昭和52年4月,Yの経営するK工業技術専門学校(以下「Y学校」という。)の前身であるK建設機械専門学校の自動車科教師として採用され,本件当時,Y学校の自動車工学科において教師として授業を担当するとともに,進路指導課長を兼任していた。
しかし,Xは,勤務時間内に出会い系サイトに学校のメールアドレスでアクセスした行為がYの名誉信用を傷つけるものであるなどとして,平成15年9月25日,Yより懲戒解雇処分された。
(裁判所の判断)
裁判所は,Xが,平成12年12月頃から貸与されたパソコンおよび学校のメールアドレスを使って学外の交際相手と私用メールを交わし,やがて出会い系サイトで知り合った複数の女性と私用メールを交換したり,同メールアドレスで出会い系サイトに登録したりするようになったが,メールアドレスを閲覧可能にしていた投稿を見た者からYに匿名で指摘があり,Xの行為が発覚したこと,また,平成10年9月から15年9月までのメールの受信記録約1650通のおおよそ半数と,送信記録約1330通のおおよそ6割がそのような私用メールであり,それらのうち約半数程度が昼休みを除く勤務時間内に送受信されていたことなどを認定した。
その上で,「被控訴人(筆者注:X)が控訴人(筆者注:Y)学校からパーソナルコンピューターを引き上げた平成15年9月から夏休みを挟んだ同年6月中に限ってみても,同パーソナルコンピューターによる送受信メールは各約100件ずつあり,しかも,そのほとんどが私的なメールのやり取りであって,業務に関連するものはほとんどなく,連日のように複数回メールを送信し,その多くが勤務時間内に行われていたものであるなど,被控訴人の行っていた私用メールは,控訴人学校の服務規則に定める職責の遂行に専念すべき義務等に著しく反し,その程度も相当に重いものというほかない。」,「また,勤務時間中,職務に用いるために貸与されたパーソナルコンピューターを用いた私用メールのやり取りを長期間にわたり,かつ膨大な回数にわたって続けることが許容されるはずがないことは誰にでも分かる自明のことであって,・・・本件懲戒解雇は誠にやむを得ないものであって,これが不当に苛酷なものということもできない。」と判示して,懲戒解雇を有効と判断した。
(コメント)
同事件の一審判決(福岡地裁久留米支判平成16.12.17 労判888-57)は,本件懲戒解雇の有効性につき,Xには自ずと職業上高い倫理観が要求され,また校長に次ぐ地位の管理職として一般職員より重い責任を負っていたこと,XがYから貸与された業務用パソコンを使用して行った一連の行為は服務規則に違反するものであり,被用者としての職務専念義務や職場の規律維持に反するだけでなく,教職員としての適格性にも疑問を生じさせ,XやY学校の名誉信用にもかかわるものであることなどから,懲戒解雇事由に一応は該当するとしたものの,メールの内容が卑わいなものではない,授業や学生の就職関係の事務を特に疎かにしたことはない,メールの送受信自体によって業務自体に著しい支障を生じさせていない等から各服務規律違反は極めて重大なものであるとまではいえない,また,Xの投稿自体がYないしY学校の名誉・信用を毀損しその社会的評価を低下させたとは直ちにはいいがたい,パソコンの使用についてYが適宜対処しなかった落ち度があるなどとして,本件懲戒解雇は解雇権の濫用として無効であるとしました。

東京プレス工業事件

横浜地決昭和57.2.25判例タイムズ477-167
(事案の概要)
Xは,昭和49年4月1日,Yに入社し,以来,Yの相模原工場に勤務していた。
しかし,Xは,無断欠勤や勤怠不良及びそれに伴う職場秩序紊乱行為のあつたことを理由として,昭和52年3月8日,Yより懲戒解雇された(なお,懲戒解雇の意思表示とともに,予備的に普通解雇の意思表示もなされている。)。
(裁判所の判断)
裁判所は,「申請人(筆者注:X)の昭和51年9月から同52年2月までの6月間の遅刻回数は24日,欠勤回数は14日であり,この間,申請人が就労すべき日数は,合計124日であることが一応認められるから,完全な就労をした日数は全体の69パーセント強にすぎないことは被申請人(筆者注:Y)主張のとおりである。・・被申請人においては,従業員が遅刻又は欠勤する場合には,事前に電話あるいは同僚にことづける形で所属係長又は課長に連絡すべきことが,それぞれ定められていたものと一応認められるところ,・・申請人の前記遅刻,欠勤は,昭和51年12月頃の1回の遅刻を除きすべて事前の届出がなかつたことが一応認められ,・・・事前の届出のない遅刻,欠勤は,被申請人の業務,職場秩序に混乱を生ぜしめるものであることが明らかであるから,以上によれば,申請人には就業規則第41条第3号,労働協約第30条第3号の「正当な理由がなく遅刻,早退または欠勤が重なったとき。」との懲戒解雇事由があったものと一応認められる。申請人は,昭和51年9月6日から同年10月13日にかけての遅刻は,申請人の積極的な組合活動を嫌悪した被申請人の申請人に対する嫌がらせの結果によるものである旨主張するけれども,このころ被申請人が行った配置転換及び申請人に命じた補助作業の各合理性については後記・・のとおりであり,申請人が被申請人によって遅刻に追い込まれたという状況になかったことが明らかである。また,申請人は,昭和51年11月以降の遅刻,欠勤について胃病や自動車の故障という正当な理由の存在を主張しているが,たとえ右のような事由が存在したとしても,事前の届出のない遅刻,欠勤は,それ自体が「正当な理由のない遅刻,欠勤」に当るものと考えられるので,申請人の右各主張はいずれも理由がない。」と判示して,懲戒解雇を有効と判断した。

日経ビーピー事件

東京地判平成14.4.22労働判例830-52
(事案の概要)
Xは,昭和58年4月,Yに採用されたが,各種懲戒処分の後,長期間の連続欠勤,度重なる職務復帰命令に違反したことを理由として,平成12年3月2日付けでYより懲戒解雇された。
(裁判所の判断)
裁判所は、「原告(筆者注:X)は,平成12年1月11日から同年3月2日までの長期間,上司による承認を受けることなく連続して欠勤し,被告(筆者注:Y)会社の人事部長及び人事・総務担当役員(ら)による職務復帰命令に違反したという点は,原告の被告の従業員としての基本的な義務に反する重大な命令違反であるといわなければならない。それだけでなく,・・出勤停止処分の後の福利厚生部会の出席拒否,伝票を次長に提出するとの指示命令違反行為,早退に許可を受けるべしとの指示命令違反行為は,原告の重大な非違行為であると評価することができる。そして,・・原告は,それまでに,・・(けん責処分,減給処分及び出勤停止処分という各種の)懲戒処分を受けていることを合わせ考えれば,本件懲戒解雇は,相当な処分であるし,平等原則の見地からも適切であるといわなければならない。原告は,長期間の欠勤をした理由について,被告会社からの度重なる違法な懲戒処分により被告会社に対して信頼関係を喪失したためであると主張するが,前述のとおり,先立つ懲戒処分はいずれも適法と評価できるし,原告の主張が職務復帰命令違反を正当化するする根拠とは到底なり得ない。上記のような評価からすれば,本件懲戒解雇の相当性を否定する原告の主張は採用できない。」と判示して、懲戒解雇を有効と判断した。